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英EU離脱とトランプ現象に共通する、世界的な病──EU取材記者が緊急報告!
(著:星野眞三雄)
──欧州各国は、いい面も悪い面も日本と似ている。バブルの発生と崩壊、金融不安、財政悪化、金融緩和……。どれもこれも、日本を見ているような感覚になる。(略)大国でない国としての身の処し方、そして日本の反面教師としても、欧州には学ぶべき材料がそろっている。米国と中国の「G2」を見ているだけでは、世界の大きな潮流はつかみきれない。──
グローバリズム、反グローバリズムの動きを含めてヨーロッパ、とりわけイギリスの動きを知ること、考えることは日本の現代の問題、未来を考える上で大きな示唆を与えてくれます。その視点からヨーロッパ(EU)の「先進国の病」を追求したのがこの本です。
ヨーロッパ諸国ではなにが起こったのか、なぜ難民拒否等のナショナリズムが勃興しているのでしょうか。いうまでもなく、このナショナリズム、反グローバリズムの動きを後押しているのはトランプ政権のアメリカです。
ナショナリズム、反グローバリズムはポピュリズムと相まっていまだ衰えるようすがありません。この動きを作っているのはいうまでもなく「経済」それも「景気」の動向です。
──国民投票前、英国の景気は決して悪くなかった。それを支えていたのは、英国の中央銀行、イングランド銀行(BOE)の金融緩和政策にほかならない。(略)「金融緩和政策」は功を奏して「『失われた20年」に苦しむ日本や危機に沈むユーロ圏を横目に」景気は順調に回復を遂げました。──
しかしこの「金融緩和政策」には負の側面があります。いうまでもなく「格差の拡大」です。イギリスでもこの社会的不平等が大きな問題となりました。
──金融緩和は格差を広げる。金融危機後の信用不安をやわらげる効果はあるが、経済を底上げするとはいえない。株や土地などの資産を持つ人が得をし、ピラミッドの「上の方」を引き上げるが、資産を持っていない「下の方」には恩恵が行き渡らない。格差が定着した社会の忍び寄るのは、激しい言葉、敵を探す動きだ。──
格差は排外主義(ヘイト)を生みます。経済格差・貧困の原因は自分たちの仕事を奪った安い労働力(=移民)にあると考えたのです。トランプを生んだ論理(思考)でもあります。
資産価格の上昇を生んだ「金融緩和政策」はロンドンの住宅価格を高騰させました。「2014年、ロンドンは、住宅バブルの様相を呈して」きました。テムズ川南岸では次のような光景が出現したのです。
──周辺に立ち並ぶ高級マンションは、夜になっても窓の明かりはまばらで、「ゴーストタウン」と呼ばれている。「所有者はいるが、住んでいない。中国やロシア、中東の金持ちが、値上がりするロンドンの住宅を『安全な資産』として買っているからだ」──
「ふつうの英国人が住めないロンドンで、外国の富裕層が持つ、「資産」としての空き家が並ぶという矛盾」が現出したのです。
この星野さんが取材したロンドンとまったく同じ事が東京で起きています。東京の(23区の一部で激しくなっている)マンションの住宅価格の高騰ぶりは建築資材費、人件費の高騰によるとはいわれていますが、それだけではありません。日本の富裕層以外で、中国人をはじめとする外国の富裕層の購入取得が目立っています(もちろん現金で)。中古マンションでも同じように外国人の購入者が増え続けています。金融緩和、円安の恩恵は日本の輸出産業だけでなく外国人の土地・住居購入にも大きな恩恵を与えているのです。明らかに一部の富裕層を除いた「ふつうの」日本人が住めない(買えない)住宅が増えています。
不動産バブル崩壊で苦しめられたのはイギリスだけではありません。スペインが、アイルランドが、あるいはポルトガルが苦しみました。
──先進国は金融・財政危機を繰り返している。危機が起きれば、金融緩和と財政出動によって景気を下支えし、金融機関が破綻しそうになれば公的資金を注入して救済する。危機対応で財政は悪化し、欧州では国債金利が跳ね上がる政府債務危機に発展、さらに金融機関の経営が悪化するという複合危機の悪循環に陥った。──
格差はこうした悪循環のなかで生まれ拡大しました。
──日米欧とも金融緩和政策をとり、欧州と日本はマイナス金利にまで踏み込んだ。じゃぶじゃぶにあふれた緩和マネーは土地や株などの資産価値を上げ、「持てる者」と「持たざる者」との格差を広げている。──
緩和マネーはそれ自体がまるで“利益を求め、過剰生産される商品”のようです。マネーはひたすら自己増殖を目的としているようにすら見えます。それが「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」ということではないでしょうか。
ではこの社会的不平等を大きくする金融緩和策はなぜ必要なのでしょうか。
それは「成長至上主義」がもたらしています。誰もが疑いもしない「成長」の目的とは何でしょうか。
──金利を上回る成長を遂げるか、物価上昇がなければ、借金の負担は増す。世界最悪の税制状況の日本でも、政権が常に「成長戦略」を掲げるのは、成長しないと借金を返せないからだ。──
「資本主義経済は、将来の成長・拡大を前提として」成り立っているのはいうまでもありません。しかし、それは私たちの生活のためというものだけではありません。なにより国の負債をなくすこと(財政再建)が目的とされているのです。
──福祉にかかわる歳出は削減されて、庶民の生活を圧迫する。一方で、雇用を確保するという名目で法人税は引き下げられ、グローバル企業はタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れで自国にはほとんど税金を納めない。──
住民(消費者)を無視した、あるいは軽んじた政策が行われています。広がる格差への怒り・不満が排外主義(ヘイト)を増大させています。ここにも悪循環があります。
見直すべき対象はほかにあります。
──経済成長の要因として、人口増加や領土拡張(=市場拡大、生産・需要・資源増)、イノベーションなどがあるが、人口増加と領土拡張が望めない先進国は、成長と金利という右肩上がりの概念で時間軸を将来に広げた。しかし、いま先進国は低成長と低インフレにあえぎ、将来の成長を見越してついていた金利すらマイナス圏に沈む。人口減少と少子高齢化で、成長を前提とした経済システムが崩れつつある。──
星野さんは日本の今をこう診断します。
──金融緩和と財政出動で景気を押し上げて時間を稼いでる間に、規制緩和や構造改革を進めて経済成長を促すというパッケージで示すことで、「何でもやる」という意気込みを示したにすぎない。第3の矢(成長戦略)が進まない現状では、アベノミクスとは結局、大規模な金融緩和による円安誘導しかなかったといえる。しかも円安によって輸出増につながるのではなく、海外で稼ぐ企業がドルを円に換算したときに、見かけ上の数字が増えただけだ。──
日本の成長戦略とは所詮「社会保障費の大幅削減や大増税でお金を確保するか、利子分以上の経済成長とインフレを達成しなければ、借金は返せない」ところからきているのです。ここには生活者(消費者)の視点はありません。「成長」という呪文から解き放たれて、今一度自分たちのありようを考える時です。その時、この星野さんのヨーロッパレポートは大きなヒントを与えてくれると思います。
- 電子あり
英国EU離脱とトランプ現象に共通するものは何か? 格差が人々の怒りに火を付けた。EU26ヵ国を取材した第一線記者の緊急報告!
「欧州各国は、いい面も悪い面も日本と似ている。バブルの発生と崩壊、金融不安、財政悪化、金融緩和……。どれもこれも、日本を見ているようだ。大国ではない国としての身の処し方、そして日本の反面教師としても、欧州には学ぶべき材料がそろっている」
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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