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これからの時代、知的財産の世界をどこまで知っているかどうかが、企業だけではなく、個人が生き残る決め手となることは間違いありません。たとえば、私たち自身もSNSなどで他人が創作したコンテンツを自分のパソコンに取り込むことで、無意識のうちに他人の知的財産権を侵害してしまう可能性もあるのです。
ところが、知的財産とは「具体的にどんなものなのかよくわからない」「自分の仕事や生活と関係ないから別に知らなくてもいい」という人は多いのではないでしょうか。
『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)は、知的財産権を本格的に勉強したことのない一般読者の方々に、知らないではすまされない「知財」について、笑いながら理解してもらうことを目指しました。
「美的創作性」って何?
突然ですが、ここでクイズです。これら4つのCマークに著作権はあるでしょうか?
本書によれば、「文字」は万人共有の文化的財産であり、情報伝達を目的としているから、「デザインされた文字」については、高度の「美的創作性」があるものに限って著作物性を認められているようです。
したがって、これらのCマークには著作権はないと考えられます。たしかに、明朝体やゴシック体などに著作権があったら、私たちが使うのに困難が生じるでしょう。
それでは次の問題です。
三越の包装紙と高島屋の包装紙には著作権があるでしょうか?
本書によれば、三越の包装紙は、洋画家・猪熊弦一郎氏の抽象画を転用したものだから著作権がある一方、高島屋の包装紙は初めから包装紙としてデザインされているので、著作権がないそうです。 この理屈によれば、何らかの「美術の著作物」を創作した後に、それを展開するビジネス戦略をとったほうが、著作権侵害を主張する時に有利に働く可能性があるのです。
「福澤諭吉」と「坂本龍馬」の違いとは?
次は、著作権ではなく、商標権についてのクイズです。
最近、ピコ太郎の「PPAP」が商標登録されていたことが話題となりましたが、「坂本龍馬」や「福澤諭吉」といった歴史上の人物は商標登録できるでしょうか?
歴史上の人物については、商標として独占することが「社会公共の利益に反する」という理由から、登録が無効になる場合が多いと言われます。
実際、「坂本龍馬」については、高知県が商標登録を出願しましたが、他の県や市町村が各種標品などに使用を制限するのはいけないと、拒絶されました。
しかし、「福澤諭吉」については、慶應義塾大学が、「密接な関係を有し福澤諭吉の名声・名誉を保全すべく活動する者」と主張した結果、商標登録されたのです。なんだか、ふしぎに思いませんか?
このような、知財にまつわる事例が、本書ではふんだんに取り上げられています。
以下に、内容を列挙してみます。
-
・佐野研二郎氏の「東京五輪エンブレム」は何が問題だったのか?
・エコハちゃんはピカチュウの著作権侵害ではなかった?
・槇原敬之氏と小保方晴子氏が『銀河鉄道999』をパクった?
・「ファイトー、イッパーツ」も登録商標!?
・なぜ「どこでもドア」は登録OKで、「お魚くわえたどら猫」は登録NGだったのか?
・AKB恋愛ゲームには特許権がある。
・「1・2・3・ダァーッ!」と叫んだら商標権侵害なのか?
・鳩山幸氏が発明したキッチンパーツの特許出願の行方。
・メリー喜多川氏の考案した「早変わり舞台衣裳」の秘密。
・「自撮り棒」と「3Dプリンタ」の特許出願は早すぎた?
・スーパーカブの権利とヤクルト容器の権利が突然復活したワケ。
・東京ドームを勝手に撮影したら肖像使用料を取られる?
etc.
どの事例も興味深くて役に立つものばかりです。
本書を読めば、「知財」の世界が驚くほど面白いことがわかるでしょう。
東京都生まれ。東北大学研究推進本部特任准教授、弁理士、米国公認会計士(デラウェア州Certificate)。横浜国立大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、大手電気機器メーカーに入社し、ソフトウェア関連発明の権利化業務、新規事業領域における企画推進・産学連携・国際連携などに従事する。約7年間は米国カリフォルニア州(シリコンバレー及びロサンゼルス近郊)にある研究開発拠点の運営にかかわった。知的財産を楽しくわかりやすく伝える知財啓蒙の第一人者。科学技術ジャーナリスト(筆名:稲森謙太郎)として執筆した著作に、『すばらしき特殊特許の世界』(太田出版)、『女子大生マイの特許ファイル』(楽工社)などがある。
これからの時代、知的財産の世界をどこまで知っているかどうかが、企業や個人が生き残る決め手となる。ところが、知的財産が「自分の仕事や生活と関係ない」と思っている人が多いのでは? パソコンやスマートフォンの爆発的普及と通信網の発達によって、私たち自身も、他人が創作したコンテンツを自分のコンテンツに取り込むことで、無意識のうちに他人の知的財産権を侵害している可能性もあるのだ。知らないではすまされない「知財」について、本書で楽しく実例を学んで理解を深めよう!
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