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【最高の歴史冒険小説】1830年、フランス。実在の人物で田中芳樹が紡ぐ!

ラインの虜囚
(著:田中芳樹)
2017.02.25
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著者はあの田中芳樹さんですから、本書の面白さは折り紙つきです。田中さんといえば『銀河英雄伝説』や『タイタニア』『アルスラーン戦記』など、SFやファンタジーの壮大なシリーズ作品をまずは思い浮かべる読者が多いかもしれません。ご多分にもれず『銀河英雄伝説』で著者の大ファンになった僕もそうです。

では『ラインの虜囚』はというと、こちらは単巻で完結している冒険小説。物語の舞台は1830年、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトがワーテルローの戦いに敗れ、幽閉先のセントヘレナ島で死去してから9年後。シャルル10世の反動政治が終焉を迎え、主に中産階級に支持されたルイ=フィリップによる立憲君主制が成立して間もないパリから始まります。

カナダからフランスへとやって来た主人公の少女コリンヌは、亡き父と長年にわたり不仲だった祖父のブリクール伯爵に会います。コリンヌは、爵位もブリクール家の財産も欲しくはありません。けれども、父の名誉は守りたい。そこで祖父に自分が孫であると認めさせようとするのですが、伯爵からはその条件として奇妙な難題を突きつけられます。

ライン河の東岸に建つ古い塔、『双角獣(ツヴァイホルン)の塔』と呼ばれている建物に、9年前に死んだはずのナポレオンが幽閉されている。

伯爵はその噂が本当かどうか、コリンヌに確かめさせようとします。そのために与えられた日数は50日間。12月25日の降誕祭(ノエル)の正午までに謎の人物の正体を確かめることができたなら、コリンヌを孫と認めると言うのです。

その要求をあっさり承諾したコリンヌは、長い旅路の前に、彼女に協力してくれる仲間たちを探すことにしました。そこで仲間になる3人の男たちは、愉快で、頼もしく、また意外な人物たちです。

仲間のひとりである作家のアレクは、なんと、あのアレクサンドル・デュマ。『ダルタニャン物語』や『モンテ・クリスト伯』で有名なフランス史上最大の文豪であり、もちろん実在の人物です。散財がはなはだしく、女たらし。けれど、決して憎めないユーモアあふれる好人物として、若き日のデュマがコリンヌの前に登場します。

実在の人物といえば、ジャン・ラフィットもそう。米英戦争のときにアメリカ側に味方した大海賊がラフィットです。彼はアメリカに裏切られ、英国、スペインからもその身を追われているのですが、コリンヌの前では常に冷静な紳士であり、たいへん頭も切れる伊達男です。

3人目のモントラシェは剣の達人。彼は前のふたりと違って架空の人物であり、なぜか正体を隠している。作中の描写で彼の正体に気づく方もおられるでしょうが、もし最後まで読んでも誰なのかわからなかった方は、文庫版の二階堂黎人さんの解説をお読みください。意外や意外な人物です。

この3人の男たちがコリンヌの仲間になり、パリからライン河に建つ塔を目指して、大冒険に出かける。もちろん、そう簡単に双角獣の塔までたどり着くことはできません。「暁の四人組(パトロン・ミネット)」と呼ばれる有名な悪党たちが、コリンヌたちをつけ狙います。彼らの目的はなんなのでしょうか? 

塔にたどり着くまでの展開はダイナミックで、息をつく暇もない面白さ。その合間に少しずつコリンヌたちの人となりもわかってくるので、ますます彼女たちのことを好きになる。そうやって読者の心が鷲掴みにされるている間に、コリンヌたちは塔に幽閉されている謎の人物の正体へと迫ってゆく。その人物は、死んだはずのナポレオンなのでしょうか。それとも、まったくの別人……? 

コリンヌたちの冒険は、そこまで進んでもまだ終わりません。そこから先でも意外な真相が彼女たちを待ち受けています。未読の読者の方は、ぜひコリンヌと一緒にその真相を確かめてください。

そんな、謎と活劇の架空歴史小説たる本書は、まず2005年7月に「ミステリーランド」というジュブナイルレーベルから刊行されました。2012年10月には講談社ノベルスからも出版され、2017年1月に文庫化。著者の田中さんはミステリーランド版のあとがきで「私は子どものころ、自分の知っている世界を自分の知っている言葉だけで書かれた物語に、何の興味も持てなかった」とおっしゃっていますが、僕もそうでした。ジュブナイル向けに書かれたといっても、ここまでレビューを読んでくださった方ならおわかりでしょうが、『ラインの虜囚』は子供だけでなく大人も楽しめる冒険小説の傑作です。

本書を手に取った子供たちは、大人の娯楽小説を楽しんだ気分にひたれることでしょう。ひるがえって大人たちは、童心に返ってコリンヌたちと一緒に冒険へと出かけた気持ちになれるはず。そんな素敵な小説です。レビューを書き終えようとしている僕の心もまだ、激動の1830年、フランスのパリから抜け出せていません。

『ラインの虜囚』書影
著:田中芳樹

時は1830年、冬のパリ。カナダから来た少女コリンヌは父の不名誉を拭うため「ライン河までいき、双角獣(ツヴァイホルン)の塔に幽閉されている。人物の正体をしらべよ」という老伯爵の難題に挑む。塔の仮面の男は死んだはずのナポレオン!? 酔いどれ剣士、カリブの海賊王、若き自称天才作家と共に少女は謎に満ちた冒険の旅へ。
大冒険、波瀾万丈、恐ろしい陰謀、ドラマチックな剣劇、大いなる秘密、暗躍する悪党、ロマンス──こういった言葉のどれか1つでも気になる人は、ぜひこの『ラインの虜囚』を読んでいただきたい。何故なら、そうした要素がすべて詰まった、珠玉の歴史冒険小説だからだ。──二階堂黎人(解説より)

レビュアー

赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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