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【刀剣ファン必携の書】武将の逸話満載──名刀はなぜ人を魅了するのか?

刀の日本史
(著:加来耕三)
2017.01.05
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優れた美術工芸品として多くの人々の心を魅せている日本刀の歴史、名刀の由来、さらには所持した武将たちの逸話までをも集めた“日本刀百科”とでもいえるのがこの本です。この本を読むと日本刀の知識だけでなく、日本史に新たな興味が湧くと思います。

日本刀は古来から単なる武器ではなく、なにか特別な、“精神”というようなものを秘めているとして捉えられていました。この刀に精神性を見るのは神話時代からのことでした。

この神話時代にあらわれた日本刀の祖として考えられているのがイザナキとイザナギの神話に出てくる「十握剣(とつかのつるぎ)」です。

この日本刀の祖は私たちが日本刀として思い浮かべるものとは形状が大きく異なっていました。日本刀の美しさの元になっている「そり」というものはなく、直刀でした。しかも刀は両刃です。

ともあれ日本は原初から「刀剣に神仏をみる国」だったのです。それは「皇室における皇位の標識として、歴代天皇が受け継いだ“三種の神器”をみれば、あきらか」です。

両刃で始まった日本刀の歴史は、室町時代にいたってひとまず完成された形となります。

そこにいたるまでの日本刀にはどのような歴史があったのでしょうか。聖徳太子から説き起こされた日本刀の歴史を綴った章はこの本の白眉です。そこで取り上げられた人物は征夷大将軍・坂上田村麻呂、鬼退治で有名な源頼光、源義経たち源平合戦の武者たち、後鳥羽上皇さらには元寇、室町幕府までの武者たちにまで及びます。歴史ファンなら見逃せないエピソードが、彼らの履いた日本刀ととも綴られています。刀剣から見た英雄伝と呼びたくなるものです。

この歴史とともに記された刀の形状の変化もまた興味深いものです。精緻な日本刀の鑑賞(鑑定)も記されており、読んだものは誰もが今までと違った日本刀の姿が見えてくると思います。数々の名刀も紹介され、日本刀がいかに生まれ、いかに進化してきたかが一望にできます。

さて、日本刀の“魅力”あるいは“魔力”にもなっている“美しさ”とはどのようなものでしょうか。

名刀に触れたものはいつの間にか「刀に魅入られてしまう」といわれています。実は、これほど日本刀というものの“魅力”をあらわした言葉はありません。日本刀が持つ、青白く光る刀身と刃文(刃の文様)の美しさ、緩やかなそりの曲線など……見飽きぬ完成された日本刀の美しさが縦横に語られています。

ところで、日本刀には「魅入られた」というものだけでなく“呪われた”という伝承があります。代表的なのは“妖刀”村正の逸話です。徳川家(初めは松平家)へ祟ったといわれている村正は、徳川家康の祖父・松平清康、父・松平広忠、息子の松平信康の死に関わっていました。さらには家康に最後まで敵対した真田幸村(信繁)が愛用した刀も村正だったそうです。
──“妖刀”村正は、徳川宗家に祟ったのかもしれない。が、村正は切れ味のよい名刀であり、尾張徳川家でも代々、大切に保有されていた。(略)それにしても、史実と講談の入り交じった、不思議な世界があったものです。──

このような物語を生むのも日本刀の持っている不思議な魅力のあらわれなのでしょう。本文では優れた刀を手にすると試し切りをしたくなるという一節がありますが、この刀のパワーに打ち勝つ精神力が使い手には求められるのです。その心得を説く加来さんは剣士としての面目躍如たるものがあります。(剣士を超えて人間の心得としても一読してほしいところです)

ではこのように人を魅する刀は実戦ではどのように威力を発揮したのでしょうか。
──日本人が大切にしてきた日本刀は、実のところ合戦で主力の武器となったことは、史上、一度もなかった。(略)映画やテレビでは、馬上の甲冑武者が槍を小脇に、あるいは日本刀を片手に戦うシーンが出てくるが、そもそも馬上で使うのは概ね弓矢であり、長槍は馬上では安定性をかき、柄を下から握られてしまえば、手放すか、落馬するしかなかった。戦いは徒(かち)でおこない、騎馬武者は下馬してから戦っている。──

その上、「鎧兜の重量を考えれば、馬の速度は時速で四キロ程度でしか」なかったというのが実戦のようすでした。しかも肝心の刀もそう多くの人を斬れるものではありませんでした。なにしろ「日本刀で人を斬ると、血脂が刃につき、普通は人一人斬れば刀は使いものにならなくなる」といわれていたのですから。

武者たちは戦場へは何本も刀を持っていきました。そういえば、剣豪将軍として知られた足利義輝も屋敷を襲われた時、あらかじめ何本もの刀を抜き身にして畳に刺しておいて戦ったという逸話もありました。

実戦でどれくらい役に立ったかはさておいても、日本刀に見るものを「魅入らせる」力があるのは確かです。魂を打つものとしての日本刀……それは武から美への変貌なのでしょうか。名刀の持つ“魔”を封印して“美”として鑑賞すること、それが日本刀のありうべき姿なのかもしれません。
──日本刀は今も、これからも、戦場における実用性を問われることもなく、眠りつづける──そういう宿命を帯びているのかもしれない──


この本の面白さは日本刀を語りながら、武器の変遷だけではなく、そこに込められた精神(魂)のありかを探ったところにあります。歴史ファン、時代劇ファン、あるいはゲームから日本刀の魅力を知ったファン、そのすべての人に楽しめるものだと思います。この本をポケットに入れて日本刀の美術展にいってみてはどうでしょうか。(時代劇ファンには宮本武蔵をはじめ塚原卜伝、柳生宗厳、上杉謙信、織田信長たちの刀にまつわるエピソードは必読です。彼らがもっと身近に感じるかも知れません、その偉大さとともに)

  • 電子あり
『刀の日本史 』書影
著:加来耕三

「武器」ではなく「美術品」になった世界でも類を見ない日本刀をめぐる歴史物語満載! サービス開始後、ユーザーが半月で50万人を突破したオンラインゲーム「刀剣乱舞」の影響もあり、“名刀”を収蔵・展示した博物館・美術館には、連日、多数のファンが押しかけ空前の刀剣ブームが到来している。古来、日本人は刀剣を大切にし、また愛でてきた。英傑たちは好んで名刀を求め、作らせ、現代においても、刀剣自体が美術工芸品として、高価で取り引きされている。歴史的偉人と名刀にまつわるエピソードは、枚挙にいとまがない。本書は、東軍流17代宗家、タイ捨流の免許皆伝として古流剣術を稽古し、真剣を実際に扱い、歴史学の分野においても、『日本武術・武道大事典』を編纂するなど、武術と刀剣との関わりを深く研究・理解してきた著者が、刀剣の歴史、武人・文人に関するさまざまなエピソードを披瀝する類書なき書である。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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