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いまの組織でも“ジャイアントキリング”を起こせる「チーム成長法則」

チームはいかにして生まれるのか、チームはビジネスでは(だけではありませんが)どのように働くのかをサッカーマンガ『ジャイアントキリング』をもとにして考えたユニークなビジネス書です。

周知のように「ジャイアントキリング」とは、番狂わせ、弱者が強者を倒すという意味ですが、この本ではもう少し広く「まわりの期待値を超える成果を生み出すこと」という意味で使われています。

ではどのようなことに留意してチーム作りを目指せばいいのでしょうか。次のようなことが頭に浮かぶのではないでしょうか。
・選手たちの気持ちをグッとつかむ情熱的かつ論旨明快なプレゼンテーション。
・それによってチームの雰囲気をよくし、まとめていく。
・自分が得意とする戦術をチームに伝授し、与えた役割をやり切らせる。
・結果が出たら活躍した選手をほめ、結果が出なければ叱咤激励して、さらにモチベーションを高めていく。

まともに思えますが、『ジャイアントキリング』の監督・達海猛はそんなことはしません。監督は選手に「自習」を命じます。仲山さんはここに「ジャイアントキリング」を起こせるチームを作る第1歩があると断じます。「カリスマ的リーダーやエースがいなくても、今いるメンバーで、まわりの期待値を超える成果を生み出すチームをつくる」には、先のような考えではダメなのです。

まず勘違いしてはいけないことは“グループ”と“チーム”を一緒くたにしてしまうことです。この両者には明らかな違いがあります。簡単にいえば“グループ”はメンバー(プレイヤー)が集まっただけの状態です。この本ではジグソーパズルを例にしてその違いを説明しています。パズルのピースを「ザックリ並べた」状態が“グループ”。それに対して“チーム”はピースの「凹凸がピッタリはまった」状態をいいます。

すぐにわかるように「凹凸がピッタリはまった」状態になる前に、ああだこうだと試行錯誤する段階があります。実はこの状態があるかどうかが“チーム”作りの要になります。「ストーミング(混乱期)」と名づけた第2段階にこれがあたります。

ちなみに“グループ”が“チーム”へ成長するプロセスには4つのステージがあります。先に紹介すると、
1.フォーミング(形成期)
2.ストーミング(混乱期)
3.ノーミング(規範期)
4.トランスフォーミング(変態期)
となります。

1は文字どおり、メンバーを集めたステージです。このあと2のステージにへ進めるかどうかが分岐点となります。1のステージで気をつけなければならないことがあります。それは「数多(あまた)のリーダーシップやマネジメントの指南書で『理想のリーダー像』として語られている」人がいてはならないということです。

なぜでしょうか。それは「優秀すぎるリーダー」は「すべてを自分で指示して組織をコントロールしようとするため、ストーミングの余地」がなくなるのです。このようなリーダーに率いられているグループでは「より優秀なリーダーが率いる集団が現れた場合にはかなわない」という結果となってしまいます。つまり既成のリーダーの能力の範囲におさまってしまう“グループ”で終わってしまうのです。「期待値を超える成果」など生まれるはずがありません。この“グループ”のままでは「ジャイアントキリング」は起こせません。それができる“チーム”に成長できるかどうかはこのストーミング(混乱期)の状態を作れる(巻き起こせる)かどうかにかかっています。

監督・達海猛の宣言した「自習」がこのストーミングへの入り口になります。このストーミングの状態では“グループ”になにが起こっているのでしょうか。
1.メンバーの本音の意見が表に出る。
2.対立・衝突が起こり、感情的にモヤモヤ・イライラする。
3.生産性が低下する。コントロールしにくい状況が生まれる。

つまり「精神的にも肉体的にも時間的にも負担がかかるしんどい」状況です。

──みんながそんなしんどい思いをするくらいなら、誰かの指示に従っているほうがよっぽどラクです。しかし、そこで元の仲良しグループに戻る道を選ばず、ストーミングを乗り越える道を選んだ人たちだけに、「チームになれる権利」が与えられます。チームを「つくる」とは、組織をコントロールして結果を出すことでなく、コントロールを手放してストーミングを乗り越え、新たな可能性を引き出すこと。──

この「しんどい状況」を乗り越えた先にあらわれるのは、「キャラクターが表出し、相互理解が進む」状況です。そうすると、自然発生的に「影響力の大きいリーダーが現れ」ます。これこそが「チーム」の発生です。

この“産みの苦しみ”を我慢して耐え抜くことが「チームづくり」に欠かせません。というのもこのストーミングでは「パフォーマンスが低下」する事態が生じるからです。
──フォーミングが進んでいくと、コミュニケーション量が増え(略)「ここまでだったら言っても大丈夫」というラインが見えてくるので、自己主張する人が増えてきます。その結果、意見の対立・衝突が起こってパフォーマンスが低下します。──

すると「元のコントロールが効いた状態に戻そう」という動きが発生します。ここが肝心です。この「コントロールが効いた状態」とは実はコミュニケーションが不在の最初のステージなのです。心配・不安が、前へ進むことをためらわせ、逆行してしまうのです。

ストーミングは「混乱期」です。そのことを徹底し「ストーミングによるパフォーマンス低下を大目に見られるようにする」ということが重要になります。ここを通り抜けた“グループ”が初めて“チーム”と呼べるものになれるのです。そのためにも「ストーミングの意義」を徹底して共有することが必要です、バラバラに戻らないためにも。

“チーム”として歩み始めると(ストーミングを越えると)「チームワーク」というものがあらわれてきます。それは「自分の出番をわきまえた」チームメイトがあらわれてくるということです。

そして迎えるのが「ノーミング(規範期)」です。そこで求められるものはビジョンを共有したメンバーの「予測力」と「徹底力」です。

これが組織を“機械的なもの”とするか“生き物”とするかの最後の分かれ道です。もちろん“生き物”でなければ「ジャイアントキリング」は起こせません。ここから先は本書を片手に自分が属する(指導する)組織のことを考える時です。この本が教えてくれることがじんわりと感じてくると思います。おもしろくてためになる……それが実感できる1冊です。

  • 電子あり
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』書影
著:仲山進也

チームには「成長法則」がある! 「70点のグループ」が、「赤点」を経て、「120点以上のチーム」に変身する。カリスマ的リーダーもエース社員も不要! のべ3万社の経営をサポートしてきた「チームづくり」のプロが語る、今いるメンバーの化学変化で史上最高の成果を生み出す「成長法則」。伸びる組織には「混乱」がともなう。混乱のない組織に成長なし。ロールモデルは達海猛。目指すは「生き物のようなチーム」。指示待ちだったメンバーたちが、自ら考え、行動し始める! 『モーニング』掲載の大人気マンガをケーススタディにした、ビジネスにもスポーツにも活かせる「超画期的」組織論登場!

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

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