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相手の心を深読みするな! 限界でもストレスに効く「鈍感」脳のすすめ
(著:植西聰)
この本はストレス過剰社会の中でどのようにすれば“心が折れる”ことがないようにできるかを、80の心構えに分けて解き明かしたものです。そのそれぞれで「鈍感」さの持ち方と、なぜそれが必要なのかを示しています。
といっても勘違いしてはいけません。
──「鈍感になる」とはバカになると言うことではありません。鈍感になるとは、小さなことでクヨクヨしない、ということです。どうでもいいことで落ち込まない、ということです。──
いたずらにものに動じないようにする、ということなのですが、わかっていてもなかなか“言うは易く行うは難し”だと思います。
鈍感にふるまうということと、鈍感な心を持つこととは大きく違います。また、そのような心構えは持っているという人も、実際にはただの無神経だったり、無関心だったりということになりがちです。
・まじめな性格のひとほど、人間関係で思い悩む→人間関係のギクシャクを考えないように心がける。
・思い通りにいかなくても、「どうにかなる」と考える→「もうダメだ。これが限界だ」と、悲観的な気持ちにならない。
・相手の心の中を「深読み」しすぎないようにする→相手の心の「深読み」は、見当違いに終わることが多い。
これらは鈍感なふるまいではありません。心が折れるようなことに陥らないためのものなのです。文字どおり“心構え”というものです。これができると他人とのムリのない接し方、自分の思っていること、感じている事を伝えやすくなると思います。
この本はこのような自分の心の持ち方から始まって、「自分らしく生きる」にはどうすればよいかへと話が続いていきます。
・「なんとかせねば」より、「なんとかなるさ」がいい→窮地でも、あえてのん気なものの考え方をする。
・鈍感な人は「無駄なこと」を「貴重な経験」に変えていく→無駄な経験を、次の人生へ生かしていくことを考える。
自分のなかに折れない、めげない心を育てる工夫だと思います。私たちは思わぬことで“悲観的”な気持ちに襲われがちです。ひとたび“悲観的”な思いにとらわれると、想像以上にそこから抜け出すのはむずかしいのではないかと思います。抜け出そうと思えば思うほどさらに抜け出しがたくなる、ということも起こりがちです。
さらに「鈍感」が私たちの可能性を広げていくこともあるという、「鈍感な人は、限界を知らない」という章に私たちを導きます。
・自分で「自分の限界」を決めつけてしまうことはない→限界が来ても限界を感じない鈍感さを身につける。
・夢が大きくなるほど、それを叶えるために鈍感力が必要になる→鈍感力で、大きな夢を叶えることをあきらめない。
・人の意見には鈍感に、自分の心から発せられる心の声に敏感になる→他人の意見より、「自分の心の声」を優先する。
自分を「鈍感なまでに信じること」というのでしょうか。
そしてそんな自分になるためには、自分をとりまいているさまざまなストレスから解放され、健全さを得なければなりません。たとえば、睡眠の仕方からも自分の鈍感力、あるいは受けているストレスの状態がわかるのです。
・鈍感な人ほど寝つきも良く、目覚め爽快である→鈍感な人ほど良く眠り、日中はエネルギッシュでいられる。
・寝つきを良くするため、寝る前に心身の働きを鈍感にする→寝る前に、心身の働きを刺激するようなことはしない。
植西さんのこの本をここまで読んで、よし今から鈍感になるぞ、というのは少し早計かもしれません。たとえば、これはどうでしょうか?
「人と気持ちがすれ違うことがあっても、まったく気にしない鈍感さ」
「悪口を言われても、心を傷つけられることのない鈍感さ」
やはり心がついつい騒ぎ、鈍感ではいられないのではないでしょうか。
もう一度、植西さんのいう「鈍感」というものを考え直してみましょう。
「鈍感」は無神経でも無関心でもなく、ましてや怠惰になることではありません。さらに加えて人間には「感情」というやっかいなものがあります。
・劣等感が、人間的な成長をもたらしてくれる→劣っていることを苦に思う必要はまったくない。
これを素直に受け取れないのが「感情」というものです。実はこの「感情」こそが「鈍感力」の最大の敵です。人々から冷静さを失わせる最大の要因は「感情」にあるといってもいいかもしれません。この「感情」をコントロールできるかどうかがキーになっているのです。
植西さんは「感情」について1章をさいて、「感情」というものの問題点を指摘しています。章題は「鈍感力で、怒らずに生きる」です。このような1節があります。
・怒りは「がまんする」より「気にしない」のがいい→怒りの感情を無理矢理がまんすると、それがストレスになる。
・仕返しをしようと思うから、自分が災難にあうことになる→鈍感力を発揮して、感情的にならずに解決策を考える。
・「鈍感になる」とは、「感情的にならない」ということだ→怒鳴るよりも、静かな口調でお願いするだけでいい。
・軽蔑されるようなことを言われても、鈍感力で聞き流す→自分の悪口を言ってくるような人間は相手にしない。
「感情」の直接的なあらわれである「感情的な振る舞い」が「鈍感」の創造性を奪い、「無神経」「怠惰」を生み出しているのです。ビジネス界だけでなく今の政界の人たちにも読んで欲しい1節です。まず目指したいのは次のようなことです。
・自意識を「無にすること」で心の安らぎを得る→今やるべきことに集中し、我を忘れる。
こうすることで「心のモヤモヤ」も「感情」へ向かう心エネルギーも押さえることができるのではないでしょうか。その上での「鈍感」です。
この本は、ふと心が疲れた時、あるいはとほうにくれた時、自分の非力さに打ちのめされた時、感情に振り回されそうになる時、心が折れそうになる時、お守りのように、おみくじの運勢解説のように開いてみるのがいいような1冊です。自分を力づけてくれる1節が必ず見つかると思います。そこだけは「鈍感」でなくてもいいかもしれませんが。
・世の中は厳しいが、その厳しさを深刻に考えすぎない→いい意味で鈍感に、いい意味でいいかげんでいる。
仕事や恋愛、人間関係でストレスをためないコツは、いい意味で「鈍感になる」ということにある。上司に怒られても落ち込まない、他人から嫌味を言われても怒らない、失敗しても悩まない、大舞台でも緊張しない──そんな「鈍感な人」が、人生をスイスイと楽しく生きていく。本書では、そんな「鈍感になる」ためのヒントを、いろいろな角度から、おもしろくかつ実践的にアドバイスする。ここで言う「鈍感」とは、にぶい、グズグズしているということではありません。鈍感になるとは、小さなことでクヨクヨしない、ということ。どうでもいいことで落ち込まない、ということ。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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