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【生命の神秘】「寄生虫」に操られるのって、どんな気分だろう?

人間に寄生する生物は、SF映画などでもよく見られる恐怖のモチーフのひとつでした。映画は絵空事ではありますが、現実の世界では寄生虫というとても小さな敵が私たちの健康を脅かすことがあります。
私たち一般人にとっては、寄生虫はキモチワルく、とても恐ろしいものという印象があります。できれば、こうした寄生生物すべてが世の中からなくなってしまえばいいのに、と思いますよね。
しかし、目黒寄生虫館館長の小川和夫さんや、線虫の専門家である長谷川英男さんによれば、寄生虫の世界はとてもミラクルで面白いのだそうです。
今回は、寄生虫愛にあふれたこの2人の著者が楽しく、分かりやすく寄生虫の世界を解説する1冊を紹介します。

2016.10.28
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グルメ志向が原因!? 生食による寄生虫症は増えている

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私たちに身近な寄生虫の例としてもっとも有名なのは、生のイカやサバなどに見られるアニサキスでしょう。また、最近増えてきた動物肉の生食の事例では、寄生虫による事故の話もよく聞かれます。

ある年齢以上の方だとギョウチュウ検査を体験しているので、寄生虫といえばギョウチュウを思い出す人も多いかもしれません。ほんの数十年前までの日本では、大人も子どもも体内にふつうに回虫が住んでいたこともありました。人糞を農作物の肥料として使っていた時代ですから、野菜などに付着していた回虫の卵が体内に入り、腸内で成長するということもざらでした。

それでは人間に寄生する種類はどれくらいいるのでしょうか。

現在、ヒトに寄生する約440種が知られていますが、その多くはほかの動物にも寄生しますから、ヒトに固有なものは40種に満たないとされています。

最近は衛生管理が徹底されているので寄生虫感染も減っていますが、それでも食習慣と関係した寄生虫は根絶が困難です。とくに、先にも書いた海産魚の生食で感染するアニサキスは、年間2000例以上の感染者が出ていると推定されています。

ところがこのアニサキスの感染は、実は1960年代ごろから急激に増加した新顔の寄生虫症だったのです。

1970年代から1980年代のバブル期にかけては、ドジョウの踊り食い、熊肉の生食、サワガニの生食などさまざまなな動物の生食による寄生虫症が発生しました。

こうした、本来は生食しなかったものが珍味として提供されることによる、新興・再興寄生虫症が増加しているようです。

ヒトも例外ではない!? 宿主を操る寄生虫の不思議な能力

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寄生虫に感染すると面白い行動を起こすことが知られている例があります。それらはいわば寄生虫に「操られている」と言っても過言ではありません。

寄生虫に「操ろう」という意識があるとは思えませんが、進化の過程で宿主・寄生の対関係ができあがるなかで、宿主に一定の行動をとらせることが寄生虫の繁殖戦略と合致し、その様式が固定されたものといえます。

たとえばワラジムシは本来陰湿な日陰を好みますが、鉤頭虫《コウトウチュウ》プラギオリンクスの幼虫に寄生されると日なたに出るようになるため、終宿主《しゅうしゅくしゅ》(=有性生殖が行われる宿主)の鳥に食べられやすくなります。

有名どころでは、ハリガネムシはカマキリなどに寄生し、成熟すると水中に脱出して交尾をしますが、その際、カマキリを水に接触させる、あるいは水に飛び込むように行動を操ります。

ハリガネムシに寄生されたコオロギは、寄生されていないものに比べて鳴かなくなることが知られています。鳴くためには翅《はね》を擦り合わせるためのエネルギーが必要で、かつ鳴くことによりコオロギをエサとする動物に補食されやすくなります。ハリガネムシはそのエネルギーを自身の体に吸収し、かつ捕食されて自身が死ぬことを防ぐためにコオロギの行動を操っていると解釈されます。

ヒトの場合はどうでしょう。ギョウチュウは夜間就寝中に肛門周囲に雌虫が出てきて産卵しますが、その這う刺激でかゆみを起こします。すると寝ているヒトは無意識に肛門周囲をかいてしまいます。それによってギョウチュウの卵が手指やシーツなどに付着し、次の感染へ繋がっていきます。

ギョウチュウに感染すると、肛門部分のかゆみで睡眠不足となった子どもにさまざまな影響を与え、爪咬みが多くなるとされています。爪を咬めば、指に付着している卵が摂取されやすくなるわけで、ヒトも操られる例といえるでしょう。

パラサイトの語源……もっと面白い寄生虫の世界を覗こう

親に寄生して働かない子どもを「パラサイト」と呼びますが、人間を寄生虫扱いした表現です。ところが、実はこの「パラサイト」は古代ギリシャ語の「パラシトス」が語源で、「パラ」は「側」、「シトス」は「穀物・食物」の意味し、「金持ちの家で食卓の傍らにあって媚びへつらい、おこぼれにあずかる道化」を指したそうです。つまり、もともと「パラサイト」は人間に対して使われた言葉なのです。

本書『絵でわかる寄生虫の世界』は彼らに関するこうした楽しいコラムも満載の、たいへん勉強になる1冊です。寄生虫研究のユニークなエピソードや、各寄生虫の名前の意外な由来など、歴史的、トリビア的な話題も含めてたっぷり寄生虫の世界を堪能できるはず。

寄生虫研究の入門書として十分な内容ですが、なにより友人・知人へのちょっとした「これ知ってる?」自慢のネタに最適でしょう(さすがに食事の席では遠慮していただきたい話題ですが)。

『絵でわかる寄生虫の世界』書影
監:小川和夫 著:長谷川英男

日本ではヒトの寄生虫感染はほとんど問題にならなくなりましたが、熱帯地域におけるマラリアなどの伝染病は依然猛威を振るっており、医学分野においてはいまだ重要な位置を占めています。

寄生虫という奇妙な生命体は生物の神秘を感じさせるテーマなのか、文系の学部などで教養的に講義が持たれることもあるようです。

そうした寄生虫の魅力(?)を伝える、入門書としても趣味としてもおすすめの1冊です。

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