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哲学を楽しめると、人生ぐっと深くなる。Jポップではじめよう!

2016.10.23
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「学生の、学生による、学生のための出版企画コンペティション」、これが出版甲子園のコンセプトです。今回紹介する『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』は、その第11回大会で発表された企画が原案の、文庫書き下ろしの1冊です。
 
著者の戸谷洋志(とや・ひろし)さんは大阪大学の大学院生。1988年生まれの若い哲学研究者です。
 
ところで、皆さんは「哲学」と聞いて、真っ先に何をイメージしますか? 

抽象的で難解なもの。専門家ではない自分たちとは縁遠いもの。したがって、自分とは一生関係のないもの……。
 
専門家の方たちは別として、そんな印象で哲学を捉えがちな人が、世の中、大半だと思います。実際のところその認識は間違っていないでしょう。しかし、そうした捉え方が絶対的に正しいかと言われたら、それはそれで違うのではないでしょうか。

たしかに哲学は、小学校で習う簡単な四則演算のように、出された問題に対してぱっと答えが出るたぐいの生やさしいものではありません。むしろ簡単には答えの出ない学問の筆頭であり、取り扱う題材や哲学者によっては、そもそもその人物が何を言わんとしているのか、そこからして理解できないものもあります。
 
しかしそうした哲学の題材は、実は自分自身のことであったり他者との関係性であったり、時間や死についてなど、我々にとって切っても切り離せない身近な問題であることがほとんどです。すなわち哲学とは、決して縁遠い存在ではない。それどころか、僕たちにとって最も身近な学問ですらある。そう言っても、たぶんさしつかえないほどです。

……と、いささか得意げに書いてしまいましたが、断っておくと、僕は哲学の専門家ではありません。オタクと呼べるほどの哲学の知見もございません。まごうかたなしド素人。でも、哲学が好きか嫌いかと言われたら、好きです。哲学を知る・学ぶということは、いろんな考え方を知る・学ぶことでもあり、それはとても楽しいことだからです。
 
人は何かを知ったり、考えたり、啓蒙されたりするとき、ある種の知的快感をえます。おそらくですが、そうした経験は誰にでもあるでしょう。少なくとも初心者にとっての哲学とは、そのような知的快感の連続と言える側面を兼ね備えています。ゆえに、難解で抽象的で、とにもかくにもとっつきにくそう、というイメージだけで食わず嫌いせずに、哲学にふれてみるのも一興だと思うのです。 

 そのための1冊としておすすめしたいのが、『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』なのです。本書に登場するのは、哲学に詳しい「先生」と、アシスタント役の女子大生「麻衣」、そして「15曲のJポップ」たち。
 
Mr.Childrenやいきものがかり、著者の推しメンが所属する乃木坂46など(本書のプロフィールによると、伊藤万理華さんが好きらしい)、人気のアーティストと楽曲(詞)が各節ごとに紹介され、先生と麻衣による独自の解釈が提示されてゆきます。

──Jポップの独特だけれどもストレートな詞を上手く利用して、難解で抽象的な哲学のテーマを考えていく──(p13。麻衣の台詞)

それが本書なのです。しかし、対話形式の平明な文体でつづられているからといって、単純明快な回答がさながら回転寿司の皿のごとく労せずして回ってくるかというと、まったくそうではありません。すでに書いたように哲学は安易に答えの出せる学問ではないと思います。もとい、個人的には、答えが出るかどうかは二義的でさえあります。

大切なのは、考えること。考えることで、それまでとは異なる角度から光が射し込み、新しい景色が見えてきます。そんなふうに先生と麻衣は対話を重ねてゆく。夫婦漫才よろしくボケとツッコミをこれでもかと交えつつゆっくりと思索を深めてゆきます(ふたりの会話はとってもコミカルなので、それはそれで面白いよ!)。

 
巻末の「おわりに」で先生もこう言っています。

──哲学をする上で大切なことは急がないことです。答えを焦る必要はありません。一度出してしまった答えを後で訂正することだってできます。私たちはいつだって初めから考え直すことができます。思索はそうした繰り返しによって深まっていくのです。──(p341)

著者(先生と麻衣)によるJポップの哲学的解釈とその分析の鋭さに感嘆するもよしです。Jポップの歌詞ひとつをとってみても、その意味するところを思索することで、それまでなら思いつきもしなかった新たな一面が不意に顔を出します。
 
各章の節ごとに、そこで取り上げた哲学者の短い紹介もされているので、気になる人がいたら、それを端緒に掘り下げていくのもいいでしょう。

誰もが哲学の専門家になる必要はありませんが、たとえ専門家でなくても自分なりに考えることができて、そのことを楽しめてしまうのが哲学のよさです。僕はそう思います。哲学を学ぶことで人として成長でき、新たな考え方を知ることで、それまで抱えていた懸念が思いがけず解消されてしまうことも、きっとあるでしょう。そのため、人によっては癒やされもする。
 
その反面、思考実験の途中で立ち止まってしまい、出口の見えない沈思の闇に迷い込むこともしばしばです。それは苦しいことかもしれません。しかし、食わず嫌いで一生避けてとおるには惜しい学問です。出会っておいて損はない。『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』を読めば、きっとそう思うはずですよ。

『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』書影
著:戸谷洋志

Jポップは、しばしば「自分」や「愛」「人生」をテーマとし、その歌詞は、シンプルであるがゆえに我々の胸に響く。一方、複雑な事象の本質を突き止め、露わにして見せようとするのが哲学ならば、両者は、密かに同じ企みを担っているとは言えまいか。Jポップの名曲を題材に誘う、今旬の哲学入門!<文庫書下ろし>

レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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