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現自民党の本心はヤバい。安倍政権「反知性主義」で起こる悪影響まとめ

偽りの保守・安倍晋三の正体
(著:岸井成格/佐高信)
2016.10.17
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スキャンダラスというか時事的すぎるようにも思える書名ですが、中味は堂々たる保守論、自民党論です。

佐高さんによれば、かつては自民党には二つの大きな流れがありました。
──安倍の祖父の岸信介に始まって、福田赳夫、小泉純一郎、そして孫の安倍と続く国権派の流れがあり、それに対して、石橋湛山、池田勇人、田中角栄、河野洋平、加藤紘一とたどられる民権派の系譜がある。前者に中曽根康弘を加えてもいいが、国権派は、まず国家ありきで、市民という言葉を極端なまでに嫌う。市民を嫌うということは民主主義を嫌うということであり、民主主義を理念とする日本国憲法を邪魔なものと思うということである。後者の民権派は池田のつくった派閥「宏池会」の大平正芳や宮沢喜一を含めて、現憲法を尊重する護憲派であり、残念ながら、この系譜は自民党にほとんど存在しなくなった。──

この後者がなくなっていく流れが岸井さんのいう「保守がタカ派に乗っ取られた」出来事でした。佐高さんから「保守本流の政治記者」といわれている岸井さんの言葉だけに重く響きます。

ふたりの対論は岸井さん(たち)を狙い撃ちにした放送法遵守を求める視聴者の会という任意団体の“意見広告”から始まります。この出来事をきっかけに岸井さんをはじめ、幾人かのジャーナリストがテレビの報道番組から降板することになったのは記憶に新しいことだと思います。「この背景には、やはり安倍政権のメディア支配があると思う」(佐高さん)というこの出来事には安倍政権の特徴がはっきりあらわれていました。岸井さんによれば、
──品性も知性もかけらもない、信じられないような個人攻撃の意見広告だった。でも、これはある意味でかつてないことだよな。(略)放っておくには由々しき事態だ。あの広告の呼びかけ人はほとんどが安倍首相の応援団で、七人のうち四人は安倍に個人献金している。広告を見たとき、怖くて不気味だという思いと同時に、官邸および政府与党は本気で言論弾圧をする気なんだと改めて思ったね。──

“性癖”ともいいたくなるような安倍氏の言動が取り上げられています。「自己弁護癖と執念深さ」です。国会でも感情をむき出しにするやりとり、指摘された論点が不都合な時には回避と責任逃れ、それでいて攻勢に転じた時の居丈高な、傲岸な振る舞いは目に余ることがあります。
──安倍はしょっちゅう「あいつだけは一生許さない」とか「あいつは今偉そうにしているけど、絶対に蹴落としてやる」とか言うらしいね。ボンボンの執念がどこまでも自己肥大したんだと思う。──(佐高さん)

感情をむき出しにするということ自体が「品性も知性」もないことの端的なあらわれです。安倍政権が“反知性主義”であることを、はからずも白日の下にさらしたということになるのでしょう。また天皇陛下の“生前退位”で宮内庁幹部の立て続けの更迭人事などにも「執念深さ」があらわれています。この「執念深さ」は極めて厄介なもので、民衆のルサンチマン(弱者がもつ、強者に対する嫉妬・羨望による憤り、恨み、憎悪、非難の感情のこと)と結びつくと、ポピュリズムから全体主義へと道を開くことにもなります。
──今の政治家というのは、安倍が象徴しているところがある。二世、その時代の人気、世論調査での高い支持、そういうことで党首になってしまうし、総理になってしまうし、かつては考えられなかった政策が通ってしまうという時代になった。これは完全に小選挙区制以来のポピュリズム的な政治風土、それから拉致問題、尖閣問題以降に火をつけられたナショナリズムによってだよ。このことは、小選挙区制の性格として認識しておかなければならないな。──(岸井さん)
ふたりは失われた“保守の知恵”を求めて自民党史を検証に進みます。そこから浮かび上がった政治家は園田直氏であり保利茂氏、後藤田正晴氏、もちろん吉田茂氏たちの言動でした。

彼らが共通して身につけていたのは「時代の要請を見透す力」と「立場を超えた役割意識」、さらには「戦争への贖罪意識」というものでした。「歴史を知っている」、それも生身で、ということに繋がっています。「右派イデオロギーに走れば、戦前の過ちを繰り返すことになりかねない」(岸井さん)という実感が彼らにはありました。昨今の「タカ派に乗っ取られた保守」には決定的にこれらが欠けています。「戦争を知らない、地方を知らない、歴史を知らない政治家ばかりになってしまった」(佐高さん)のです。

この上にたった現在の「国家主義。国家統制型の政治」はなにをもたらしているのでしょうか。その典型的な事例が「政府が助けるべき人間と助けない人間をはっきりわけている」(佐高さん)というところにあらわれています。
──岸井:湯川遙菜さんが拘束された時、後藤さんの「責任はすべて自分にあります」というメッセージが出ると、官邸は「よかった」と言ったものな。そして「後藤さん本人があそこまで言っているなら、何もしなくて大丈夫だ」とばかり、自己責任論に徹したんだ。
佐高:親の財産で暮らしているような甘ったれタカ派の政治家が、他人に対して自己責任論を説いて強要されているわけでしょう。痛憤にかられてならないね。(略)
佐高:今の副総裁の高村正彦は、弁護士時代は統一教会の顧問弁護士だった。
岸井:安保法制を強く主導してきたのも高村だ。もともとは三木派なんだけど、岸信介以来の、外交・防衛の情報畑なんだ。情報畑というのはアメリカと一体だからね。後藤健二さんの事件の時も、「金を出すつもりはない」と言い、殺害後には「あれは勇気ではなく蛮勇で、自己責任だ」と言い放った。安倍が中東まで行って、イスラエルの首相と並んで会見をしたことへの反省がまるでない。こういうところも無神経になっているよな。安田純平さんが拘束されても、政府は助けようとしていない。メディアもほとんど報じない。──
宗教団体と自民党の深い関わりを指摘した後の対論の1節です。

「一に憲法改正、二に教育、三に言論統制と着々と手を広げてきている」(岸井さん)というこの政権はどこへ日本を導こうとしているのでしょうか。拉致問題も「政治利用」をしたと指摘され、「基地問題と原発問題」も解決どころか住民軽視の国益一般論へすり替えているように思います。

自民党が示している憲法草案に家族条文がありますが、乱暴、粗雑な自己責任論を鑑みると個人の尊重を基礎とする(基本的人権!)近代的価値観を放棄し、非近代的価値観を重視する中で家族尊重をいっているように思えます。

「二回生以下の公募組が四割」という人材不足が指摘されています。かつては“派閥”という“学校”があった。そこでは政治家を鍛えるものがあったと。河野洋平氏がこういっていたそうです。
──小選挙区制というのはハト派を消していく、と。自民党から一人という話になると、どうしても威勢のいいタカ派が出ることになる。──(佐高さん)

これは感情が優先されるもとになります。小選挙区制の悪しき利用例と化しているのが日本の政治状況なのでしょうか。貧困な政治は貧困な未来しかもたらしません。劣化した政治は劣化した未来しかもたらしません。どこから直すべきか、正すものは何なのかを考える時だと思います。現在の日本を診断した好著だと思います。ヒントはあふれています。

  • 電子あり
『偽りの保守・安倍晋三の正体』書影
著:岸井成格/佐高信

吉田茂を源とする自民党主流の政治を追い続けてきた、毎日新聞を代表する"保守本流"政治記者・岸井と、保守と対峙し続けてきた"市民派"論客・佐高が、「本物の保守」とは何かを語り、安倍晋三とその取り巻きたちの虚妄を鋭く衝く!

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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