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日本はベトナムに「ブラック国家」だと気づかれている!

ルポ ニッポン絶望工場
(著:出井康博)
2016.09.24
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“絶望工場”とは何か? それは日本そのものを指しています。増加する海外からの来日者は観光客だけではありません。「留学生」や「実習生」、さらには「労働者」として滞在する人も増加しています。この本は海外から希望を持って日本へやってきた人たちがどのような“生活”を強いられているのか、そしてその結果、抱いていた“夢”が“絶望”へと変容させられていくさまを追いかけた力作ドキュメントです。

安倍政権が成長戦略の一つとして掲げている政策に「留学生30万人計画」というものがあります。「日本のグローバル化」の名のもとで福田康夫政権が提唱した計画を継承したものです。「外国人労働者や移民の受け入れには反対」でも「留学生に関しての異論」はあまり聞かれません。というのも、彼ら留学生が日本の文化に親しみ「卒業後は、日本企業の戦力」となってくれることを期待しているからです。

もともとこの「30万人という数字」には根拠といえるものはありませんでした。フランスで「高等教育期間で学ぶ学生の約12パーセントを留学生が占めていた」というところから単純計算して導き出されたものに過ぎません。「日本も、約300万人の学生のうち10パーセント程度は留学生にしようと考え」て、はじき出された数字だったのです。

当然(?)この数字は達成できません。そこで政府が行ったことは「目標達成のための“水増し”」とでもいえる政策でした。以前は「留学ビザ」と区別された「就学ビザ」の発行対象であった「日本語学校」も「留学ビザ」になり、日本語学校で学ぶ外国人も留学生と数えられるようにしたのです。

日本の「留学ビザ」はアルバイトを容認しています(週28時間を上限としていますが)。そしてこの特徴を利用(悪用)したブローカーがあらわれました。日本に留学すれば、「アルバイトで月20万~30万円は簡単に稼げる」といううたい文句をネットなどに流して若者を勧誘する業者(ブローカー)があらわれたのです。

このブローカーと組んだのが日本語学校でした。日本語学校はアパートを借り上げアルバイトの斡旋を行い、進んで「留学生」を引き受けたのです。斡旋料だけでなく家賃(寮費)をとる日本語学校もあったそうです。

「留学生」は名ばかりで事実上の「労働者」として来日していたのです。しかし、彼らを待ち受けていた環境は苛酷なものでした。高額な授業料、斡旋料、家賃で、彼らは縛り付けられてしまったのです。この本でベトナム人の青年たちの例が詳述されています。
──ベトナム人でも、富裕層の若者は米国に留学していく。しかし、庶民にとって米国留学は経済的に難しい。そんな彼らにとって、日本だけがチャンスを提供してくれるのだ。だから家族は希望を託し、大金を借りてでも息子や娘を日本へと送り出す。──

事実上の労働者(=偽留学生)として多くの人たちが来日しています。彼らを待っていたのは夢の実現どころか破綻した生活でした。故郷で多額な借金をして来日した彼らは、十分な収入は得らえません。バイトの掛け持ちをする「留学生」が増えていきました。中には過労死した青年もいます。「留学生には30歳近い人や既婚者」もいるそうです。

──安倍政権になって以降、とりわけベトナム人へのビザ発給が緩んでいる。その背景には、「中国」への意識もあるのかもしれない。ベトナムは歴史的に反中感情の強い国で、日本と同様に中国との領土問題も抱えている。そんなベトナムに「留学ビザ」の大盤振る舞いで恩を売り、さらに日本へと引き寄せようとしているようにも映る。しかし、それが政策判断なのだとすれば、むしろ逆効果を生んでしまっている。留学生たちは日本で“奴隷労働”を続けるうち、被害者としての意識に目覚める。そして日本人憧れを抱いて来日した若者たちが、次第に「反日」へ変わっていくのだ。──

日本は“ブラック企業”ならぬ“ブラック国家”となっている、これは「留学生」たちだけではありません。「外国人技能実習制度」で来日している外国人「実習生」にもあてはまります。この実習制度にも留学生と同様の政府の欺瞞がうかがえます。

──実習生の受け入れでは「監理団体」と呼ばれる斡旋団体を通すのが決まりだ。(略)監理団体には一応、「協同組合」や「事業組合」といったもっともらしい名前がついている。だが、実態は人材派遣業者と何ら変わらない。しかも、実習生の斡旋を専業とする団体がほとんどだ。──

出井さんによると、この「監理団体」はバックに政治家もいるブローカーとでも呼べるものだということです。「実習生」の受け入れにはさまざまな“ピンハネ”の構造が存在しています。日本の官僚機構(天下り団体も)も加わっています。
──受け入れ企業の上には監理団体と送り出し機関があって、さらに制度全体を統括するJITCO(国際研修協力機構)が存在する。このピラミッド構造を通じ、実習生の受け入れが一部の業界関係者と官僚機構の収入源となっている。そして陰では、官僚や政治家たちが利権を貪っているわけだ。その結果、実習生の賃金は不当に抑えられてしまう。──

この低賃金のもとで彼らが従事している仕事といえば、日本人がやりたがらない3Kどころか“汚い、きつい、危険、帰れない、厳しい、給料が安い”6Kのような仕事です。
──人手不足は、低賃金・重労働を嫌がって日本人が寄りつかない仕事ほどひどい。そのことを素直に認めたうえで、なぜもっと正直な議論をしないのか。いつまで外国人を騙し、都合よく利用するつもりなのか。これでは日本が国ぐるみで「ブラック企業」をやっているも同然だ。──

苛酷な環境から犯罪に手を染める外国人もあらわれました。
──彼らは多額の借金を背負い、出稼ぎ目的で来日する。しかし、来日前にブローカーから伝えていたほどには稼げない。そこで学費の支払いを逃れようと、日本語学校から失踪して不法滞在者となる。入管当局に見つかるまで、稼げるだけ日本で稼ごうとするのだ。すでに法律に違反して滞在し、仕事までしている彼らにとっては、窃盗や万引きなどで罪が増えたところで大した意味はない。──

犯罪のスパイラルです。この連鎖を止めることはできるのでしょうか。
──日本で働く外国人労働者の質は、年を追うごとに劣化している。(略)留学生に至っては、出稼ぎ目的の“偽装留学生”の急増は目立つが、本来受け入れるべき「留学生」は決して増えていない。すべては、日本という国の魅力が根本のところで低下しているからなのだ。──

「外国人技能実習制度」で声高にいわれている「国際貢献」や「技能移転」も「お為ごかし」でしかありません。そこにあるのは利権にまみれたピンハネ構造です。「留学生30万人計画」というものは建前だけは立派なものの、ただの利権まみれの計画になっているのです。
──「留学生30万人計画」は即刻中止すべきだ。出稼ぎ目的の留学生が歓迎される国など、世界を見回しても日本だけである。ブローカーや日本語学校、人手不足の企業に食いものにされた挙げ句、犯罪に走るものも続出している。──

根本から考え直す時が来ていると思います。それは海外からの受け入れ態勢の充実というだけではありません。自分たちが嫌がる業務に従事させているということも考え合わせる必要があります。彼らの労働によって支えられている日本の経済構造も考え合わせるべきです、格差を生むだけでなく、さらに苛酷な実労働を他者に押しつけているという。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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