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【虫嫌いも必見】昆虫愛の原動力──あの日のあの虫をもう一度!

今、最も人気の昆虫学者、丸山宗利さんと、「ジャポニカ学習帳」の表紙写真で知られる写真家、山口進さん。前回は、「昆虫探しの魅力」をそれぞれに伺いました。今回は、虫に魅せられたきっかけ、その深い深い「昆虫愛」の源について、お二人にお話いただきました。

2016.09.22
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丸山宗利(まるやま・むねとし) イメージ
丸山宗利(まるやま・むねとし)

1974年東京都で生まれ。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。九州大学総合研究博物館助教。蟻と共生する好蟻性昆虫を研究している。『昆虫はすごい』『アリの巣を巡る冒険』『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『だから昆虫は面白い』など、話題の書を刊行し、今注目の昆虫学者。

山口進(やまぐち・すすむ) イメージ
山口進(やまぐち・すすむ)

1948年三重県生まれ。写真家、自然ジャーナリスト。「ジャポニカ学習帳(ショウワノート)」の表紙「世界特写シリーズ」を1978年から現在まで一人で担当。主な著書に『実物大巨大探検図鑑』『地球200周!不思議植物探検記』などがある。NHK「ダーウィンが来た!」などの昆虫撮影を担当している。

──少年時代、一匹の虫との出会いからすべてが始まった

山口:僕が虫に惹かれたきっかけは、アゲハチョウです。ある日、小学校に上がったばかり頃のことかな、うちに飛んできたアゲハチョウを父が捕まえて、僕の目の前で展翅(てんし)(※)してくれたんです。2枚の板の上で標本になっていくアゲハの姿が、もうそれは綺麗で、その美しさの虜になりました。

(※)展翅(てんし):標本にするために、2枚の展翅板にチョウなどの昆虫の翅を広げて、形を整えること。

丸山:お父上も昆虫がお好きだったんですね?

山口:そうなんです。父は海洋学者だったんですが、昆虫や植物も大好きで、一時は植物学者を志したほどだと聞いています。家には自然科学に関する本がたくさんあって、折に付けその中から本をくれたりして、僕の科学への好奇心を育んでくれました。

丸山:山口さんはアゲハだったんですね。今回の本『わくわく昆虫記』にも書きましたが、僕はコカマキリでした。

山口:確か、3歳のときでしたよね。そんなに小さな頃のことなのに、とても鮮明に覚えていることに驚かされます。

丸山:今でも本当にはっきりと記憶しています。アパートの向かいの空き地で近所の子たちと遊んでいたとき、年上のお姉さんが捕まえたコカマキリを見せてくれたんです。その不思議な形、カマの裏にある変わった模様──その時の衝撃と恍惚とした感情は、40年近くたった今でも忘れられません。

<撮影 山口進>

山口:コカマキリって一見、地味な虫ですが、それでも衝撃だったんですね。

丸山:そうですよね。まだ、昆虫という言葉も知らないときで、おそらく初めて見た昆虫だったせいかもしれません。

山口:丸山さんは東京の出身ですよね。

丸山:コカマキリに出会った3歳のときまでは新宿、翌春に江戸川区の葛西に引っ越したので、東京の都市部で少年時代を過ごしました。母の実家が静岡の田舎町にあったので、毎夏、そこへ出かけるのが一大行事でした。クワガタやカブトムシなどのすごい虫には、静岡で出会いました。

山口:幼稚園の遠足で行ったマザー牧場で、お友だちがマイマイカブリを見つけて、くやしい思いをした話も印象的ですね。

丸山:はい、中山君。名前も忘れられません。あれはほんとうにくやしかった。でも、中山君も嬉しかったんだと思います。捕まえたマイマイカブリ、ちゃんと千葉から東京まで持ち帰っていましたからね。虫かごに入っていたのをずーっと見てましたから、よく覚えています。

山口:それぞれの虫との出会いをよく記憶していますよね。

丸山:決して昆虫が多い環境で育ったわけではなかったので、新しい昆虫との出会いのひとつひとつが新鮮で、衝撃的な出来事として記憶されたのだと思います。そうした記憶をひとつずつ紐解きながら、今回の本を書きました。

山口:「あの日の虫をもう一度」。それが丸山さんの原点というか、原動力ですよね。僕は、当時の丸山少年の気持ち、丸山少年の目線を想像しながら、その情景を追いかけて撮影をしました。

──ボロボロになるまで読み込んだ、虫の本

丸山:お父上から昆虫図鑑をもらったとおっしゃっていましたが、どんな図鑑だったのですか?

山口:じつは、今日、丸山さんにお見せしようと少年時代に愛読した本をいくつか思って持ってきました。図鑑はこれ、『テンネンショクシャシン コンチュー700シュ』です。昭和5年の初版で、40刷くらいまで版を重ねた名著です。

山口進さんの少年時代の愛読書。左から『テンネンショクシャシン コンチュー700シュ』(著:オカザキツネタロー、1932年)、『昆虫界のふしぎ』(著:中西悟堂、1962年)、『ビーグル号の博物学者』(著:ダーウィン、翻訳:内山賢次、1953年)。

丸山:古い本なのに、色もいいですね。

山口:いい紙を使っていますよね。本の作り方が丁寧で贅沢な造本です。

丸山:ちゃんと残しているところがすごいですね。

山口:父の本棚にあった1冊をもらったんですが、毎晩布団にまで持ち込むほど気に入って読み込み過ぎて、バラバラになってしまいました。これは大人になってから神田で探しまくって、手に入れた初版本です。

丸山:それは貴重な本ですね。この著者は、カタカナ書きにこだわっているんですね。「コムシハ モモノミヲ クー」。

山口:そうそう(笑)。この図鑑で僕は世界の虫のことを知りました。小学校4年生か5年生頃に読んだのは、『昆虫界のふしぎ』です。著者の中西悟堂は、野鳥の研究家ですが、虫から植物まで全部で十何冊あるこのシリーズを全部ひとりで書いているから驚きです。日本野鳥の会の創設者です。

丸山:さっき見せていだいたら、ツノゼミもちゃんと載っていますね。

山口:そうそう、この本の写真を見て、僕はツノゼミはこのサイズ(10㎝弱)の昆虫だと思ったんですよ。初めてアマゾンに行ったとき、ツノゼミを探したの。でも、どうしても見つからない。やっと教えてもらって、見つけたら小さいのにびっくりしました(笑)。丸山さんは、子どもの頃にどんな本を読みましたか?

丸山:図鑑なら、僕は小学館の『昆虫』、それに学研の『世界の甲虫』でした。ボロボロになって表紙が取れて、頁がバラバラになるまで読み込みました。特に『世界の甲虫』は、僕の甲虫好きの原点です。『昆虫の生態図鑑』もよく見ました。

山口:あれはいい本ですよね。僕もよく読みました。

丸山:じつは先日、ある雑誌で「心に残る一冊」という企画があって、僕がこの本を挙げたところ、編集の方から「写真家の山口さんと一緒です」と言われて、驚いたことがありました。

山口:最初に、春夏秋冬の絵があって、そこにいろんな虫が描かれていて、身近にもこんなに多様性に富んだ虫の世界があるのだと表していました。

丸山:あの世界にとても憧れました。

山口:あと一冊、僕が愛読したのが『ビーグル号の博物学者』です。

丸山:ダーウィンですね。

山口:はい、これは抄訳なんですが、ダーウィンの世界一周の話です。この本で、世界を旅するというのがひとつの夢になりました。

丸山:それで今、世界中を旅して撮影をしているのですね。山口さんも、そうやって好きなことをずっと追いかけてこられたわけですが、食うに困ったことなんてあるんですか?

山口:ありますよ。30代の頃は、それこそ食うに困る生活でした。入ってくるものより出ていくものの方が多くて。それでも、使った分は必ず戻ってくると信じて、どんどん撮影して、機材も買った。ケチったりすることはありませんでした。家族には迷惑だったかな(笑)。

丸山:最近は、僕の研究室にやってくる学生さんに、「食べていけるか」を心配する子が増えています。僕はそんなことはまったく考えなかった。

山口:時代のせいかもしれません。「食べていけるか」を基準にしてしまうと、大きなことはできないと思います。

丸山:だから、学生さんたちには「本当に研究したいなら、そんなことを考えずに研究に集中して、同世代で抜きん出れば必ず就職できる」と伝えています。


■山口進さんが撮った昆虫の写真をInstagram(wakuwaku_konchuki)で公開中!

https://www.instagram.com/wakuwaku_konchuki/

『わくわく昆虫記 憧れの虫たち』書影
文:丸山宗利 写真:山口進

注目の昆虫学者・丸山宗利氏と、「ジャポニカ学習帳」の山口進氏がコラボ! 懐かしい虫たちが掌に蘇る、虫写真エッセイの決定版!

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