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ペリー開国時、ミスコン優勝の14歳が春画を語る──座敷童子みたいな小説!

大奥の座敷童子
(著:堀川アサコ)
2016.08.20
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第13代将軍、徳川家定の治世。1853年にペリーが黒船で来航し、その翌年には開国条約を結ぶに至った時代。奥州、野笛(のぶえ)藩では「美女くらべ」が行われていました。その「美女くらべ」で一等を獲得したのが、14歳の少女、今井一期(いまい・いちご。以下、イチゴ)。野笛は小さな藩ですが、それでも城下一の美女です。14歳の少女なら小躍りしてもおかしくない。おかしくないと思いますけど(たぶん)、ひとつ問題が。

「座敷童子(ざしきわらし)……ですか?」

野笛藩の国家老(くにがろう)に、座敷童子を探してこい、と命じられてしまうのです。
 
野笛の座敷童子は江戸城の大奥にいるらしい。大奥といえば将軍のお嫁さんやら側室やらを集めた美女たちの花園。つまり、大奥には美女でなければ、ご奉公に上がれない。イチゴは野笛一の美女。よって、イチゴなら大奥に座敷童子を探しにゆける。実にロジカル。でも、なんでまた座敷童子を探せと? 

野笛藩のプチ情報として、借財があるそうです。その額はなんと、160万両。16文のソバ6億5000万杯ぶん。当然、その負債をどうにかしたいので、福の神たる座敷童子の神通力で、たちまち解消することにしたのだとか……。
 
14歳の少女に藩の窮状をカミングアウトした挙げ句、ファンタジーで解決しようとする国家老は、チャーミングとしか言いようがありません。ただし、イチゴはひどく困惑します。無茶ぶりされたので当然です。とはいえ、藩の重鎮の頼みは断れませんから、里の命運を託され、いざ大奥へ。

こんなふうにして進んでいく『大奥の座敷童子』は、時代物ファンタジーの、とても楽しいお話です。大奥で暮らすイチゴたちは、全寮制の学校に通う女生徒たちのようでもあり、その賑やかな雰囲気が、本作の明るさのベース。そこに“枕絵の妖怪”や“泣きジジさま”など「怪談話」的な謎が加わって、物語を盛り上げ、引っ張ってゆきます。
 
謎──といえば、イチゴは大奥へと向かう途中、悪漢たちに襲われます。そのときは事なきをえたものの、襲撃の理由や男たちの正体が、それはそれで気になるところ。作中にちりばめられたこれらの謎は、段階的に解き明かされ、そのどれもが「あっ」と驚くものばかり。時代物ファンタジーと書きましたが、ミステリとしてもしっかり作り込まれているのです。
 
そうした中、イチゴに迫るのは悪漢ばかりではありませんでした。
 
気がつけば、恋の足音も──。とりわけ、次の場面が僕のお気に入りです。

「枕絵の妖怪のことはご存知ですか?」

イチゴがある男性とふたりきりのときに言い放った台詞です。この時点で、ふたりは恋仲ではなく、たぶん特別な感情もないはずですが、枕絵というのは春画のことです。春画というのは現代のそれにたとえると、2次元の「エロ画像」です。美少女が、親しくもない男性相手に、2次元のエロ画像の話をふるんですよ! 
 
一応、断っておきますが、不意打ちの下ネタが面白かったという理由だけで、この場面をチョイスしたわけじゃありません。その人の天然な部分だったり、こちらが理解できる範囲で変なことを言い出したりすると、つい気持ちを許してしまうことってありませんか? 

あれです。異性だとか恋愛感情など関係なしに、この人は好きになれそうだなあ。そう思えてくると、本当にそういう人と一緒にいるようで、癒やされました。このとき、イチゴと一緒にいた男性もそうだったのかもしれません。ふたりがどうなるのかは、読んでみてのお楽しみ。

ミステリ、ホラー、ファンタジー、青春、恋愛、時代物。そうした複数のジャンルを内包した「癒やし小説」。読み終えると、なんだか優しい気持ちになれます。それは、本作の著者・堀川アサコさんの「幻想シリーズ」にも言えることです。「幻想シリーズ」のファンなら、『大奥の座敷童子』も充分楽しめるでしょう。

座敷童子が家にすみつくと、その家はお金持ちになるわけですが、言い方を換えると、フトコロがあたたかくなるわけです。『大奥の座敷童子』を読んでいて、確かに胸のあたりがあたたかくなりました。本来の意味とは違っていますが、この小説自体が座敷童子みたいなものだなと思えたものです。

レビュアー

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赤星秀一

赤星秀一(あかほし・しゅういち)。1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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