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「賄賂だけで57兆円!?」中国共産党を知る男が明かす、1100兆円大損の黒幕

中国経済「1100兆円破綻」の衝撃
(著:近藤大介)
2016.08.01
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南シナ海での中国の海洋進出に対してオランダ・ハーグの仲裁裁判所は中国の主張に法的根拠がないという判断をくだしました。もちろん中国はすぐに反発し、2000年の歴史というものを根拠に南シナ海は中国固有の領土だと改めて主張しています。相変わらずの強硬な姿を見せていますが、こういった姿勢で中国はなにを目指しているのでしょうか。また、中国経済の減衰がいわれていますが、中国の進出を可能にする国力はあるのでしょうか。そのような疑問に答えてくれる1冊です。

よく知られているように中国(習近平)は「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」を作るという「一帯一路(ワンベルト・ワンロード)」という方針を国家意思として内外に打ち出しています。
──古代から中国は一貫して、世界一の経済大国だった。特にアジアは中国を中心とした「冊封体制」によって秩序が保たれてきた。だが、1840年に起きたアヘン戦争で敗れ、米英をはじめとする欧米列強や日本に侵略されて中国は没落していった。だから「中華民族の偉大なる復興という中国の夢」をなんとしても実現させる──

やっかいなのは、これが国際社会への中国の国家意思というものだけではなく、国内へも向けられているということだと思います。それも習近平政権(近藤さんによれば習近平皇帝)の意思として。

中国の権力者はいつも3方向の“覇権”を握ろうとしています。ひとつはもちろん国際社会でのもの、ふたつめは国内での対抗勢力、もうひとつは中国共産党内の派閥間での“覇権”です。しかも権力者層が考えたそれらの重要度は、党内、国内、国際の順のように思えます。

国策(国是)となっている「中華民族の偉大なる復興という中国の夢」も、実はこの本で近藤さんが指摘しているように「習近平主席の野望」であって、それは同時に習近平権力の維持・安泰を目指しているものになっています。

ではこの習近平のもと中国経済の実態はどうなっているかというと、
──公になった数値だけを見ても、地方政府の債務は邦貨で480兆円以上に上り、銀行の不良債権も発表されただけで36兆円に達する。そして2015年夏の株価暴落による560兆円の消失、この3つを足し合わせると、実に1100兆円近い。ところがこの「1100兆円の損失」も序章に過ぎず、中国経済のさらなる悪化が待ち受けているのである。──

近藤さんは、この株価暴落の大きな原因のひとつに習近平が「毛沢東主席以来の経済オンチ」ということをあげています。大暴落に直面しても必要な対応をすることなく記念行事に参加していたという習近平ですが、それだけではありません。この経済破綻の中に権力闘争の影が落ちています。ある中国共産党関係者の話がこの本に載っています。「株暴落に乗じて、欧米のヘッジファンドとつるんでいる江錦恒を捕らえようとしている。経済よりも、最大の政敵である江沢民元主席との権力闘争の方が大事なのだ」と。

習近平が経済に疎いということだけでなく、すべての中国の行動(もちろん経済指針も含めて)につきまとうのが中国共産党内の党派闘争、権力闘争です。

また巨大な官僚組織につきまとう賄賂(裏経済)の影響も見逃せません。
──GDPの3割にあたる4兆元(当時のレートで約57兆円)もの「灰色収入」が、中国社会に存在していたという。しかも、個人の収入全体に占める「灰色収入」の割合は、高所得者層が62%、中所得者層が5%、低所得者層はゼロだった。──

このような実態を考えると中国政府の発表する統計の内容を疑わざるを得ません。実は支配層内でさえこんな発言があったそうです。
──『中国の経済統計なんか信用できない』──これは李克強首相の言葉だ。それ以来、中国では、政府が発表するGDP統計ではなく、『克強指数』が真のGDPと囁かれるようになった。──

けれどこの指数(鉄道貨物輸送量、電力消費量、貸出増加額の3つの指数)も中国当局によって違う意味にすり替えられてしまいました。
──李克強首相が『注目している統計だ』と、権威あるイギリスの経済誌『エコノミスト』が2010年に発表したため、克強指数となづけられた、ということにしてしまったのである。──

どこまでも政治(権力)優先の国家ではないでしょうか。たしかに“社会主義市場経済”という不可思議なものをまがりになりにも成立させているのは、“社会主義”を標榜し、その名のもとに支配を続ける政治権力(中国共産党)が存在しているからなのでしょう。

強権的な政治で市場(=経済)をコントロールしようとしている国家(=中国共産党)の姿がここにはあります。これは形を変えた“国家と市場”の争いともいえそうです。

恣意的(=人為的)な操作で統計数字を変えてみても(取り繕っても)実態が改善されたわけではありません。国内の不満をそらせるための経済指針とその結果が、国際経済の中で必ずしも受けいれられているわけではありません。最近の中国鉄鋼輸出でもそれがうかがえます。国内向け政策の結果、過剰生産となった鉄鋼をダンピングで中国が輸出……。これも中国の国内政策のツケ(!)を国際経済に押しつけているようにも思えるのですが。

「一帯一路(ワンベルト・ワンロード)」を推進するために設立されたAIIBにも中国の政治的野心(習近平の野心)があります、もちろん国内向けのアピールも含めて。確かに権力闘争最優先の国家であったとしても、中国経済の変動が国際経済に及ぼす影響が大きいことに違いはありません。その行方を考えるには、中国の意思がどのように決定されるかを知る必要があります。その大きな一助になるのがこの本だと思います。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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