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【衝撃】天皇陛下の全仕事──年間700件以上、なぜこんなに激務なのか!?

天皇陛下の全仕事
(著:山本雅人)
2016.07.29
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いきなり浮上した天皇陛下の生前退位(譲位)の意向という報道ですが、その発端のニュースソースが不明のこともあり、さまざまな意見、観測(憶測といったものも)が飛び交っています。生前退位が皇室典範に盛り込まれなかった理由は3つあるそうです。
1.退位を認めると上皇や法皇などの存在が弊害を生ずる恐れがある。
2.天皇の自由意思にもとづかない退位の強制があり得る。
3.天皇が恣意(しい)的に退位できるようになる。

現行憲法で天皇は「国政に関する権能を有しない」と定められていることを前提とするとこの3つがどのような意味になるのか考えてみることも必要かもしれません。「天皇が自身の意向で生前に退位することは政治的行為にあたるのではないかとの議論もある」そうですが、そこを論ずる前に知っておかなければならないことがあるように思います。

それは“天皇陛下の仕事”です。この本は、少し前の出版ではありますが、とても丁寧に天皇陛下、皇后陛下の仕事内容を紹介しています。

年間700以上あるという天皇の仕事ですが、その仕事の量を順位にした「行事別ランキング」があげられています。
1位:国事行為関係(内閣関係)などの書類に天皇が目を通し決済する「執務」。
2位:国内の要人や功績のあった人などに会う「拝謁(接見含む)。
3位:皇居内の清掃などのボランティアを行う皇居勤労奉仕団のメンバーに会ってねぎらうなどの「会釈」。
4位:外国の賓客に会う「会見」「引見」
5位:客を皇居や御所に招きドリンクや軽食をともにしながら語らう「お茶」「茶会」。
6位:国事行為の一環として行われる「信任状捧呈式」。
7位:内外の客を招いて行う昼食会や夕食会である「午餐」「昼餐」「晩餐」「夕餐」。
8位:天皇が皇居内の宮中三殿などで、国家や皇室の繁栄を願うなどの祭儀を行う「皇室祭祀」。
9位:出席予定のさまざまな記念式典や授賞式について事前に主催者や関係者などを御所に呼んで内容を聞く「説明」
10位:記念式典や授賞式、レセプションへの出席。

これは本書出版当時(平成16年)のものですが、近年では上記のもの以外にペリリュー島などの慰霊碑への訪問、さらに東日本大震災、熊本地震のような災害地への訪問などがあり本書刊行時に比べてより多忙になり、順位も少し異なっているかもしれません。

天皇の仕事というと憲法に定められた13の国事行為がすぐに思い浮かびますが、それ以外にも公的行為というものがあります。
──公的行為が国事行為と大きく異なる点は、天皇が国事行為を行うに際して必要とされている「内閣の助言と承認」が、公的行為に関しては必要とされないことだ。──

つまり、この公的行為には「憲法の趣旨に反しなければ、ある程度天皇の意思」が反映されていると考えられるのです。ですからここには憲法に定められた“象徴”とはいかにあるべきか、どのようなものであるべきかという陛下の考えがあると見るべきだと思います。

──元最高裁判所判事の園部逸夫氏によると、“「象徴」としてこの行事に出席するのがふさわしい”という判断について、「普遍的な価値(平和・環境)に関するものであって、かつ、非政治的な活動や、国民が共有する価値(福祉・文化・健康)に関する活動などへ積極的に関心を寄せることや支援を行うことが象徴の行為であるべきといった規範などが考えられる」としている。(略)そのような判断の積み重ねの中から「象徴として行うべき」行為の基準を明らかにできる、つまり、「象徴」というのはどのようなものかが具体化され、「象徴天皇」像が形成されていくのだという。──

誤解をおそれずにいえば“象徴”を目指して不断の活動をされているというのが公的行事へむかわれる陛下の姿勢ではないでしょうか。それゆえ「普遍的な価値(平和・環境)」であるものを重要視されているのだと思います。

そして「普遍的な価値(平和・環境)に関するもの」の大きなもののひとつが「先の大戦の犠牲者への追悼・慰霊(のご訪問)」なのではないでしょうか。この本でも、それは「現在の両陛下の“ライフワーク”となっている」と記されています。そこにある「普遍的な価値(平和・環境)」への思いを忘れてはならないと思います。さらには『ふたり 皇后美智子と石牟礼道子』(高山文彦著)で描かれた天皇皇后両陛下が水俣病患者と会見されたのも「普遍的な価値(平和・環境)」への願いがあったのでしょう。もちろん被災地の見舞いも同じです……。

日本国憲法を遵守されている天皇、国事行為だけでない公的行為との全体からうかがわれる天皇の仕事というのは、まさしく日本国憲法の精神を現実化し続けるもののように思えます。

「一般の人の目線を大切にするよう心がけた」というこの本は、詳細に追った天皇陛下のドキュメント・日録とも読めるものです。憲法に明記された「国事行為」、「公的行為」、「その他の行為(私的行為)」の3つ、それぞれに天皇・皇后両陛下がどのように振る舞っているか、それを追うことで、この本は“象徴天皇”がどのようなものなのかを語っているように思えます。特異な天皇論として輝いている1冊です。

2013年12月23日、天皇陛下が80歳の誕生日を前にこのような談話を述べられました。
──天皇という立場にあることは、孤独とも思えるものですが、私は結婚により、私が大切にしたいと思うものを共に大切に思ってくれる伴侶を得ました。皇后が常に私の立場を尊重しつつ寄り添ってくれたことに安らぎを覚え、これまで天皇の役割を果たそうと努力できたことを幸せだったと思っています。──

この本を読むと、天皇陛下がいかに激務であるかが分かります。そして、この談話や、さらには譲位というものがなにを意味しているのか、深く考えさせられるます。そこには「普遍的な価値」を伝え持続させるという意思があるように思います。ですから生前退位というものを政治的思惑などというもので語ってはならないと思います。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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