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理詰め相撲、カエル伝奇、ミステリでラブコメ!?──城平京の天才炸裂
主人公の逢沢文季(あいざわ・ふみき)は中学3年生の“相撲少年”。父は190センチに達する仁王のような男で、大学まで相撲をやっていた。母は小柄だが、その父を凌駕する相撲知識と理論の持ち主。要するに文季は相撲が大好き一家に育ったのだ──と聞くと、「どすこい!」が口癖の、ぽっちゃりでっぷりした少年を想像すると思うが、そんなことはまるでない。
文季の身長は150センチに届かず、体重も40キロに満たない。愛らしい少女のような外見の美少年。残念ながら「どすこい!」とか全然言わない。冷静沈着で、何事につけ分別がよすぎる。どう贔屓目(ひいきめ)に見ても相撲には向いていない体型、彼は母親ゆずりのがっちがちの理論派だ。文季が語り、実践する相撲は、徹底してロジカル。ともすれば名探偵の推理のようでもある。「相撲=パワーで押し切る」イメージの強い僕にとっては、これだけで新鮮だった。
そんな文季ではあるが、唐突な両親との死別を機に、叔父の暮らす久々留木村(くくるぎむら)に引っ越すことになる。田んぼの多い田舎で、ブランド米の生産地。耳慣れない村名は、カエルの鳴き声が由来らしい。
カエルの鳴き声? なんで? と思うかもしれないが、村ではカエルが神様なのである。村の米が美味いのは「カエル様」のおかげであり、「カエル様」は相撲が大好き。村の男子は強制的に相撲をとらされ、年に2回の村祭りでは相撲の勝ち抜き戦がある。
「文季、あなたは相撲に愛されてる」
かつて母は、文季にそう言った。でも愛されているのか、祟(たた)られているのか、文季にはよくわからない。文季の理詰めの相撲は、当然、相撲が盛んな村でも注目の的になる。
そんな折、村の神に仕える家の長女、遠泉真夏(とおいずみ・まなつ)から、カエルの相撲の指導を頼まれることに。
カエルの相撲の指導──!?
当たり前の話だが、常識的に考えてカエルは相撲をしない。よって、人に稽古なんぞ頼まない。が、遠泉家を訪ねてみると、本当に、カエルたちが寄り集まって楽しそうに相撲をとっているではないか。当然、カエル様は人語も理解できる。
カエル様は、ホントに神様だったのだ!
さすがの文季もびっくりするが、久々留木村は、そんな村である。長身でちょっとお尻が大きいらしい真夏は、バイクを片手で持ち上げることができるほどの剛力の持ち主。これもカエル様のお力。村において、カエル様は何よりも尊い。遠泉家の女性は60歳になると、そのカエル様の嫁になるらしい……。
とはいえ、カエル様とて万能ではない。外来種(イチゴヤドクガエル)に相撲で勝てないので、どうにかしてくれと文季に泣きつくくらいである。そのへんが、なかなか可愛い。僕は昔からカエルが苦手なのだが、本書に登場するカエル様は、口振りこそ仰々しいが(神様なので仕方ない)、むしろそこがチャーミングだ。こんなカエルなら触れそうな気がする。神様なので、安易に触っちゃいかんけれども。
まあそんなわけで、しぶしぶ稽古のオファーを受諾するハメになった文季だが、時を同じくして村と市の境にある林で、トランクに詰め込まれた女性の死体が発見される。この物語が単なるスポ根ではないことが明確になる瞬間(文季が冷静沈着すぎるので、端からスポ根の空気は皆無に等しいが)。
女性はおそらく他殺で、トランクの中には外来種(コバルトヤドクガエル)の死骸が一緒に入っていた。村の神様たるカエルたちを相撲で負かし続けるイチゴヤドクガエルと、トランクの中から発見されたコバルトヤドクガエル。ちょっと種類は違うけれど、はたして、偶然だろうか?
文季は事件に興味を持ちながら、仕方なくカエルに相撲も教えつつ、何より稽古に立ち会う真夏との会話が面白い。本書の作者、城平京さんの傑作『虚構推理』に登場する岩永琴子と桜川九郎に相通ずるような夫婦漫才。事実、『雨の日も神様と相撲を』は、笑えるラブコメでもある。
理論重視のスポーツ物で、伝奇で、ミステリで、ラブコメ。これが全部詰まっているのに、ごちゃごちゃしておらず、めちゃくちゃ面白いから、城平さんは凄いとしか言いようがない。
というわけで、この物語がどのような着地を見せるのか、是非、本書を手に取って確かめてほしい。きっと素敵な読後感に包み込まれるはずだが、僕の感想をもう少しだけ述べると、文季と真夏の印象が大きく変わった。仰々しい口振りのカエル様たちは、相変わらずチャーミングだ。このふたり(とカエル様たち)が今後どうなるのか、続きを読みたいと思うのは、きっと僕だけではあるまい。いままでカエルが苦手だったけれど、現実の世界でも少しは好きになれそうな、そんな気分にもなれるのだった。
レビュアー
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。
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