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「イクメン」という言葉が浸透して久しいが、今、子育てならぬ孫育てに積極的に参加する中高年の男性=「育じい」が増えている。かつては猛烈サラリーマンとして子育てを妻に任せてきた男性たちが、保育園の送り迎えはもちろん、おむつ換えや離乳食作りなどを積極的にこなす。彼らを育児に向かわせる理由は何か? 中高年の男性を対象とした更年期外来を持ち、自らも2人の孫の育児中である医師の石蔵文信氏に聞いた。
1955年、京都府生まれ。循環器科専門医。大阪樟蔭女子大学健康栄養学部教授。 三重大学医学部卒業。国立循環器病院研究センター、大阪警察病院などで勤務後、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授を経て、現職。 中高年男性に多いメンタル疾患と生活習慣病などを「男性更年期障害」として診察するための外来を、大阪、東京で持つ。著書に『60歳からの超入門書 男のええ加減料理』(講談社)、『夫源病 こんなアタシに誰がした』(大阪大学出版会)、『なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略』(幻冬舎)、『親を殺したくなったら読む本』(マキノ出版)など多数。
育児で「定年後うつ」を解消
私のクリニック(男性更年期外来)に来られる患者さんの中には、定年後の生きがいを失ってしまったことで、うつ病を発症した方たち。バリバリ働いてこられた方が、スケジュール帳が真っ白な毎日を過ごすことはかなり苦痛なのでしょう。何もやることがない→やる気が起きない→眠れない→体がだるい→やる気が起きない、という悪循環に陥り、それがうつ病へとつながるのです。
「定年後は趣味や旅行などを楽しむ」と言ったものの、すぐに飽きてしまいます。自由すぎる時間を持て余すようになってサラリーマン時代にあった生活のリズムは崩れ、やがて体の不調へとつながっていくのです。この失われた生活のリズムを取り戻してくれるのが育児。保育園の送り迎えをするだけでも、リズムが取り戻せます。
育児で健康増進
60歳以上の男性には不眠で悩んでいる方が多いのですが、育児をすれば、そんな悩みは一気に解消できます。育児は本当に重労働。私は2歳と5歳の孫娘のめんどうを見ていますが、午後9時や10時に孫より先に寝落ちするなんてことはしょっちゅうです。 生活にリズムが戻り、体力を使うことで食事はおいしくなるし、よく眠れて健康増進につながります。ジムに行くより安上がりで、肉体的にも精神的にも健康になるのが育児のご褒美。「定年後うつ」も回復へと向かっていくようです。
孫の食事の用意で認知症予防
最近のデータによると、料理を作ると認知症の予防になるそうです。孫たちのごはんを作ることが認知症予防に一役買ってくれ、ついでに自分の昼ごはんも作ると、妻にも喜ばれます。何よりも、料理ができると孫がよくなついてくれます。食料をくれる人に従うのは動物の本能なのでしょう。作るのは簡単な料理でいいのです。私がいつも作っている料理は土鍋を使った簡単なもの。孫に好評だったのは炊き込みごはんです。
孫が喜ぶ炊き込みご飯(12か月~)
①米1合を研ぎ、ざるに入れた状態で15分ほど水に浸す。
②鶏もも肉、しいたけ、えのきだけ、しめじ、にんじん、ごぼう各少々を細かく食べやすい大きさに切る。
③土鍋に①の米を、水けを切って入れ、水(カップ3/4・160ml)、白だし、酒少々をくわえる。(米1合に対して、水・白だし・酒を合わせて170~180mlにする)
④鶏肉や野菜を土鍋に加えて、全体をざっくりと混ぜ合わせる。
⑤土鍋を強火にかけて、グツグツするまでゆっくりとかき混ぜ続ける。
⑥グツグツしてきたら蓋をし、弱火にして13~15分炊き、火を止める。
⑦蓋をした状態で5分ほど蒸らしてできあがり。
これが食べられるようになれば大人と同じ食材で大丈夫。ただし、細かく切ってあげることが大切。離乳食が始まっても、ミルクはしばらく必要です。食べた量を考えてミルクの量をこまめに調節すると無駄が省けます。
熟年離婚! その原因は?
定年後、毎日家にいる夫のことを妻はどう思っているでしょうか。「一緒にいられてうれしい」なんて思っている妻は皆無に近いでしょう。夫が家にいるストレスで病気になってしまう妻(私はこれを「夫源病」と名付けました)もいるのですから、夫婦の溝は夫の予想をはるかに超えて深い。「夫婦仲良く老後を……」と思っているのは夫だけ。愛されているはずなのに疎まれている、妻の憎しみ(?)は、いつ芽生えたのか。それははるか昔、結婚後5年以内にあなたがその種を蒔いていたのです。
妻の不満を「育児」で解決
あるアンケートによると、ふたりにひとりの女性が「結婚後5年以内に夫が嫌になる」そうです。5年というと、第一子の子育て真っ最中の夫婦が多い。熟年離婚の理由は、直近に起こったことへの不満というのは案外少なく、育児期に持った夫への不満を引きずり、定年後の夫のうっとおしさに不満が爆発して離婚するというパターンが非常に多いのです。
孫育てをすると、育児の大変さを実感します。「妻はこんなに大変なことを、ひとりでしてきたのか」と、きっと妻に感謝するでしょう。感謝の気持ちを持って妻に接することが、互いに歩み寄るきっかけになり、熟年離婚を回避してこられた夫婦を、私はこれまでたくさん見てきました。孫がいない方には、地域のボランティアに参加するなどして、子どもたちと接する機会を持つことをおすすめします。
子世代の頼れる助っ人になる
「保育園落ちた。日本死ね!!!」でクローズアップされた待機児童問題。深刻化する状況から働くママを救ってくれるのがじいさんの存在です。最近では、各地で開催されている「孫育て教室」が人気を集め、自治体も祖父が積極的に育児に参加することを推奨しています。
夫婦共働きが多い今の子世代を手助けするときに注意したいのが「ママの邪魔にならない」ということ。ほどよくサポートすることを心がけましょう。口出ししすぎると嫌われることに。子育ては人生最大の重労働、その真っ只中にある子世代を見守り、頼れる助っ人になることが自分自身の生きがいにつながります。
子育てには手を抜くポイントがある
「孫のめんどうを気軽に見ることができない」「遠方にいてなかなか会えない」という方なら、会えるときには安心して預けてもらえるように準備しておきましょう。子育てにはコツがあります。孫娘ふたりのめんどうを見続けてきてわかったことは、「育児書通りにしなくとも子どもは育つ」ということ。手の抜きどころがあります。
子育てはマニュアルどおりにいかず、どんな過酷な仕事より大変ですが、自分が健康的な生活を送れるだけでなく、日本が抱えている問題のひとつを解決できる貴重な仕事です。とりあえずは、1日1時間、育児をしてみることで、あなたの人生はまだまだ明るく楽しいものになるはずです。
医師ならではの視点を加え、子育て初体験の中高年の男性でも楽しみながら育児を手伝えるヒントを満載。育児に悩むママも必見の1冊。
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