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【内緒エロ】秘密守ってください。何でもします…(学園一の美少女より)。

V系バンドの王子様が実は学園一の美少女お嬢様なのは秘密にしてくれ
(著:椎月アサミ イラスト:蜜桃まむ(EDEN’S NOTES))
2016.07.01
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「ヴィジュアル系って若くて退廃的でカッコいい男たちが音楽とパフォーマンスで若い女性ファンを魅了するやつでしょ」

あまりのニワカ臭に詳しい人からは叱られそうだが、恥ずかしながら筆者のヴィジュアル系に対する認識はその程度だ。X JAPANは「紅」しか聴いておらず、その昔「聖飢魔ⅡってV系なの?」と尋ねて複雑な顔をされるような人間だから、正直な話『V系バンドの王子様が実は学園一の美少女お嬢様なのは秘密にしてくれ』が出た時はちょっと不安になった。

「これ、俺が読んでも良さ分かるのかな」

結論から言うと大丈夫だった。
もしあなたが「クラブDJはとんかつ屋の亜種」とか「ワブルベースはなんでもダブステっぽくする万能調味料みたいなもの」といういい加減な認識をお持ちでも恐らく問題は発生しない。ぶっちゃけると音楽知識はなくてもいい。なぜかって、読むのに必要なV系の知識は作中で説明されるし、この作品も本質的には秘密を抱えた女の子と恋をするラノベなのだから。

内容を見ていこう。ヒロインの百合園萌々(ゆりぞのもも)はヴィジュアル系バンドRosenkreutzのボーカル&ギター緋萌(ヒメ)として活躍している。Rosenkreutzはそのヴィジュアルと素晴らしい楽曲で大勢の女性ファンを引きつけているが、ファンには美男子たちのバンドだと思われている(ただし性別は公開していない)。要するに、萌々は性別を隠して売り出している。

主人公の七音空詩(ななとそなた)は妹が追いかけているV系バンドRosenkreutzの王子様・緋萌とひょんなことから出会い、うっかりぶつかって服を汚してしまったため、シャワーと着替えの提供を申し出る。これで何も起こらなければ「あるV系バンドの王子がファン(の兄)に匿ってもらった」という伝記的なエピソードで済むのだが、本作はラノベなので流れるようにハプニングすけべが発生する。なにが起きたかはご想像にお任せするが、空詩はこの出来事をきっかけに萌々の性別を知ってしまい、彼女の秘密のバンド活動に協力することになる。そういう筋書きだ。

物語のつくりはとても分かりやすい。過去の事件がきっかけで音楽から距離を置いていた空詩、バンド活動を通して自分の音楽を貫こうとする萌々。2人で一緒にバンドを盛り上げていくうちに、空詩は自分の過去と向き合えるようになり、萌々はV系に理解のない家族と対立し音楽を通して対話する。2人の成長を見守るRosenkreutzの仲間たち……。爽やかで筋の通った青春の物語と言えそうだ。

そこに肝となる音楽ネタが振りまかれている。たとえばRosenkreutzの情報は空詩の妹からもたらされるのだけど、その熱心なバンギャ(V系大好きな女の子)ぶりは他の作品ではなかなか見られない。ひょっとしたら萌々と空詩の出会いも十字路で悪魔に魂を売り渡し素晴らしいギターテクを手にしたという某伝説を踏まえているのかもしれない(これはV系ネタではないけれど)。ちなみに読みながら一番ヤバいと思ったのは、萌々が某V系楽曲の歌詞にある「○○舐め」を実行に移してしまうところ。その愛情表現はいかに言っても振り切れ過ぎだよ! と思わずツッコミを入れてしまった。とはいえ音楽にはパッションが大事だし、このくらいキレっキレであってほしい気持ちもないではない。

ところでパッションといえばカート・コバーンはかつて「俺たちの音楽にはパッションがあるけど、ガンズ・アンド・ローゼスにあるのはファッションだ」と発言したそうだが、じゃあRosenkreutzはどうなんだろう、と考えてみた。対バンを張った相手にギターの腕前を指摘されたあと、萌々がマイケル・アンジェロなみにPracticeを重ねてギターのテクニックを身に着けていったのは間違いなくパッションだと思う。けれどファッションの方に気合が入っていないわけでもなく、際どい衣装に着替えるRosenkreutzの面々のなまめかしさは隙がない。本作を読むときは、危うくグラビア系バンドになりそうなきわどい挿絵にも注目してほしい。

レビュアー

犬上茶夢

ミステリーとライトノベルを嗜むフリーライター。かつては「このライトノベルがすごい!」や「ミステリマガジン」にてライトノベル評を書いていたが、不幸にも腱鞘炎にかかってしまい、治療のため何年も断筆する羽目に。今年からはまた面白い作品を発掘・紹介していこうと思い執筆を開始した。

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