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【中二】クズ男子に恋する「こじらせ自爆ロボ」、主役女子との三角関係

FIX YOU(1)
(著:惣本蒼)
2016.06.03
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惣本蒼による漫画『FIX YOU』は、地味っ子女子中学生パイロットと巨大ロボットの心の葛藤と戦いの日々を描いた物語だ。人類を守るため、ある日突然ロボットに乗って戦う……という一見普通のロボットバトル漫画なのだが、色々と様子がおかしい。

まずは、このロボを見てほしい。



中二病(?)全開で迷ゼリフを連発。何コイツ、超面倒臭そう。

こんな情緒不安定なロボと付き合わなければならなくなった、主人公の姫香には同情する。おつかれ。

さらに、“彼”は人間の男に恋をしていた。相手は440人目のパイロットだった陣崎虹一(じんざき・こういち)。
「信頼できる男だった……6機同時に相手をしても十数秒でラクに処理していたよ」
「息もピッタリ……というのか? とにかくすごかったよ」
と、現パイロットである姫香の前でノロケ(にしか見えない)を披露したり、かと思えば
「虹一……おまえは……ひどい奴だ……」
と未練を吐露してみたり、ロボは完全に虹一への想いをこじらせている。

あるロボット研究者曰く、最も恐ろしいのはロボットが人間に敵意を抱くことではなく、興味がないこと=「無関心」であることだという。仕事を放りだした結果、人間がどうなろうと関係ないからだ。しかし虹一への態度は無関心とは真逆。めちゃくちゃ執着している。

ちなみに「愛の反対は無関心」と言ったのはユダヤ人作家エリ・ヴィーゼル。

武者小路実篤は『駿馬の喜び』という詩で、走る喜びを教えてくれた乗り手へ抱いた、馬の思いを「愛」と言っている。へえ……。


しかし虹一は死に、残されたロボはシステム異常に苦しむようになる。原因は“不明”。「好きだったのか」と姫香に問われても「さあ」と答えるロボがもどかしい。そんなロボットの態度に、姫香はやりにくさと孤独感を募らせる。

そもそも姫香は、人間を守るために戦い続けているロボットがいることを知らなかった。謎の生物の研究標本としてドームの中で生かされていることを、人間が「忘れて」しまったからだ。平和な日常の裏で戦争が繰り返されてきたことも、今姫香が戦っていることも、誰も知らない。いきなりパイロットに選ばれて花嫁の格好をさせられ、ロボットに乗って無我夢中で戦ってきた。それなのに、パートナーのロボさえ自分を見ていないなんて、政略結婚で跡継ぎだけを求められる後妻みたいだ。

そしてもやもやとした思いは、戦いで重大な危機を招いてしまう。あわや自爆エンド……という時2人を助けたのは、なんと突如現れた虹一だった。システム異常とも思える、原因不明の現象にロボはびっくり。これは愛の力なのか?

圧倒的な強さと華麗な戦いから滲むカリスマ性。ほんの一時、共に戦っただけの姫香をも魅了し、敵を翻弄する虹一はどこか蠱惑的で“ワルい男”のにおいがするオム・ファタールだ。

その魅力を目の当たりにした姫香は、虹一に惹かれる一方で、自分が虹一の代わりになれないと思い知る。何この三角関係、すごい切ない。

現実世界のロボットは、人間の心と身体に近づくことを目標に進化してきた。しかし、生きるのに不器用で面倒くさくて人間っぽい本作のロボット、そしてそれを想う姫香の関係を見て、人間が「彼らに寄り添いたい」と願う未来を妄想する。

ちなみに、イギリスのロックバンドcoldplayがつくった「Fix You」という曲がある。大切なものを喪った人への親愛を歌った曲は翻訳サイトではしばしば「あなたを支える」と訳されている。メロディーも詞も超美しいので、機会があれば聴いてみて欲しい。本作の世界観に、寄り添うものがあるかもしれない。

最新号の「ネメシス」(#27)で、1巻の続きを読めるというので手に取った。虹一を慕う者、虹一を殺した者、新たな敵など役者が次々登場し、姫香たちの三角関係とともに今後がとても気になる。でもまあ、まずはロボに、虹一への気持ちが恋って気づいて欲しいけど。

レビュアー

松澤夏織

ライター。漫画やアニメのインタビュー・構成を中心に活動。片道25km圏内ならロードバイクで移動する体力自慢。漫画はなんでも美味しくいただける雑食系。

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