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【これでも入門編】エクセル地獄の職場で、VBA神になるには?

入門者のExcel VBA
(著:立山秀利)
2016.05.25
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本書は、Excel VBAの記述法をていねいに解説した書物です。ここで使われた例題はすべてネット上の作者のサイトからダウンロードすることができ、実際に手を動かしながら学習することが可能です。続編(『実例で学ぶExcel VBA』『脱入門者のExcel VBA 自力でプログラミングする極意を学ぶ』))も出版されており、本書がガイドブックとしてとても有効であることがわかります。

ここで疑問が生まれた人、多いですよね。Excel VBAってなんだよ、という質問はたくさん受けそうです。可能なかぎりかみ砕いて説明します。えーっとですね……。

業務でExcelを使っていますと、毎日毎回おこなうような操作がでてきます。たとえば、表を作ったら必ずグラフにして印刷しなければならない、とか。もちろん、毎日毎回同じ操作をすりゃいい話なんですが、めんどくさいですよね。ミスも入りやすくなります。そこで、それを記録して、毎日毎回の操作はExcelにやってもらおう、という発想ができてきます。これを「マクロ」と呼びます。マクロをうまく活用すると、20工程はあるような複雑な操作が、ボタンひとつで実現できちゃったりするのです。

マクロは、テレビ番組を録画するみたいに簡単に記録することができるのですが、それだけでは不足を感じるような局面はかならず出てきます。つまり、録画みたいな記録では対応が難しいような場合です。たとえば、色が白ならこっち、赤ならあっちというように、操作が異なる場合があります。これを条件分岐といいますが、これはマクロの記録だけでは難しい。「判断」が必要となるからです。

また、同じ操作を何十回何百回とくりかえさなければならないとき、マクロはあまり役に立ちません。むろん、何十回何百回とくりかえして実行すればいいのですが、それって本末転倒ですよね? めんどくさいから、ミスが入り込む確率が高くなるからマクロを利用しはじめたのに、それをくりかえすなんて……。

そんなとき、マクロを自分でつくっちゃおう、という発想が出てきます。マクロの正体はVBA(Visual Basic for Applications)というプログラム(命令群)ですから、それを自分で組み立ててしまえばいいわけです。

Excelにはそのための機能が備わっており、本書はその基礎をわかりやすく述べた解説書です。つまり、本書をマスターすればExcelの一歩上の使い方が実現できるわけです。仕事でExcelを活用することの多い人は、ぜひ手にとってみるとよいでしょう(結果、仕事が増えたとしても責任はとれませんが!)。

ところで最近、一般企業の仕事ぶりを体験する機会を得たのですが、Excelの浸透は思っていた以上で、たいそうびっくりしました。おまえそこはExcelじゃねえだろ、というツッコミを何度入れたくなったか知れません。それほどExcelは浸透しているのです。

Excelがこれほどに普遍化したのは、一般社会におけるExcel的なるものにたいするニーズが大きかった結果だと思っています。Excelや、それに類するプログラムでおこなうとされている作業――表を作ったりグラフにしたり――は、ほぼすべての企業で求められていました。

むろん、社会の側がExcelに合わせた側面もあるでしょう。しかし、Excelの方でもそれを受け入れる柔軟性を持っていたのも事実です。マクロを記録し、VBAを記述できるという特性は、その好例です。

もっとも、Excelが社会に浸透していったころ、筆者はあまりそこに積極的な興味を抱くことができませんでした。一般企業にいなかったせいでしょうか。大きな関心を抱いたのは、同じころ話題になることが多くなった「オープンソース」という考え方です。

オープンソースとは、要は値段がタダで、改変・再配布が自由な、それまでの慣習にはなかったような考え方です。これは相当にラジカルだぜ、と思っていました。利用者がほとんどいないSlackware Linuxを活用して悦に入っていたのもそのころのことです。若気の至りももちろんありましたが、オープンソースというムーブメントを肌で感じていたいという気持ちが大きかったのだと思います。

その後、オープンソースは多くの人に受け入れられました。たぶん、現代ほどオープンソースが一般化した時代はないでしょう。みなさんの手元にあるAndroid、それオープンソースですからね。要は、個人がオープンソース・プログラムを持って歩くようになってるのです。

ただし、Androidがこれほど広まったのは、Googleが既存の社会のしくみ(商慣習をふくむ)とオープンソースをうまく結合させたからです。断じて、若いころの筆者みたいに、オープンソースの思想に共鳴する人を数多く生み出したからではありません。Excelが広まったのも同じです。崇高な理念ではなく、現実的なニーズに対応する能力を備えていたから広まったのです。

……と、いうようなことを、ハイパーテキストの考案者テッド・ネルソンのXanaduプロジェクトがいまだ進行中であるという記事を読みながら考えました。

現在、WWWはとても大きな存在になっています。インターネット=WWWという誤解が広まるほどに。WWWとはウェブページ(「ホームページ」は誤用)がハイパーテキスト(リンク)で結ばれたシステムですが、ここでのハイパーテキストは、テッド・ネルソンが考案したハイパーテキストの一部だけを使用した粗悪なものだ、羊頭狗肉だ、とはよく語られたものです。テッド・ネルソンのハイパーテキストは、その理念だけを聞いても、世の中を大きく変革する可能性を秘めたものでした。

しかし、現実的なニーズのないところでいくら理想を語っても、それは実現しません。現実は常に、今あるものの先にあります。Androidの成功とExcelの隆盛は、それを物語っていると言えるでしょう。理想に共鳴するのは、半可通の若者だけです。テッド・ネルソンがまだハイパーテキストにこだわっているのはたいへん心強いですが、残念ながら理想のようには、世の中は変わっていかないようです。当たり前だ、という人もいるでしょう。しかし、筆者はこれを知るために10年以上かかったのです。

今後、Excelはますますサラリーマンの必須項目になっていくでしょう。本書は、より高度な使用法をやさしく述べた、Excelを学ぶためにうってつけの本です。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの?』を出版。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった。

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