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もの忘れが激しい人は、脳のメモリが「運動不足」。

もの忘れの脳科学
(著:苧阪 満里子)
2016.04.06
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以前は、電話番号の暗記なんか平気だった。要するに、数字8桁の短期記憶なんか余裕でできてたってことだ。今同じことをしろと言われても、たぶんムリだ。
同じころ、すこし年齢を重ねた人が、他人の名前を覚えるのに四苦八苦してるのも見ている。なんで覚えられないのか、不思議で仕方なかった。おかげさまで今はどういう状態だったのか、よくわかるようになった。(これは成長してるのか退行してるのか、どっちなんだろう?)

なぜ人は、歳をとると記憶に支障をきたすのか。ものを覚えられなくなるのか。本書はその主要因をワーキングメモリの減退であるとし、ワーキングメモリとは何か、さらにはそれを維持/強化し、歳をとっても記憶力の低下に悩まされないためにはどうしたらよいかを論じている。

ワーキングメモリとはなにか。詳細は本書を参照してほしいが、私たちの思考になくてはならないものだと言えるだろう。

あなたは今、ダイコンを切っている。賽の目にするのか、三角に切るのか、千切りにするのか。どう切るかはあなたの頭の中に入っている。そのとき包丁をどう動かすべきなのかも、あなたは記憶している。

それと同時に、あなたの頭の中には、切ったダイコンをどうするのか、献立も入っているだろう。味噌汁の具にするのか、おでんに入れるのか、カクテキにするのか、サラダを作るのか。つまり、単なる「ダイコンを切る」という動作の中で、われわれは多くの記憶を働かせているわけだ。これらの記憶には、ワーキングメモリが密接に関わっている。

歳をとると、ワーキングメモリの容量が少なくなる。たとえば、野菜を買うためにスーパーに行こうと思って家を出たはずなのに、途中で友達に会って会話に夢中になり、その後でふとわれに返ると、自分がなんのために出てきたのか忘れちゃったなんて経験、誰だってあるでしょ? これは、友達との会話によってワーキングメモリが使い果たされてしまい、当初の「野菜を買う」という記憶をとどめていられなかったことが主要因となっている。

ワーキングメモリの容量は、脳が萎縮するともに減っていく。したがって、年齢を重ねれば重ねるほど、記憶力(ワーキングメモリ)は弱まっていく。

本書において、著者は高齢者にたいし、ワーキングメモリの活性化のための提案も行っている。ワーキングメモリは使えば使うほどいい。だから、たくさんの人と話しなさい。本を読むにもワーキングメモリはおおいに使われるから(たとえば、われわれが小説を読めるのは登場人物を記憶しているからだ)、多くの本を読みなさい。さらに、ワーキングメモリは情動、つまり楽しいか・楽しくないかにも大きな影響を受けているから、楽しい思いをたくさんしなさい。そう語っている。

歳をとると、どうしたって行動範囲はせまくなる。火の消し忘れで火事を起こしたり、注意不足による交通事故を起こしたりすれば(どちらもワーキングメモリの減退が大きな要因だ)、自分は何もしない方がいいと考えがちだ。
だが、そうした消極的な生活態度をとればとるほど、ワーキングメモリは弱体化していく。歳をとったからこそ積極的に。本書はそう語っている。

最近、身のまわりにじじいばばあが増えた。そうか、これが高齢化社会ってやつなんだな。そう実感した。今後もじじいばばあは増えていくだろう。おれたちはそれに対応していかなければならない。

どんな人もいずれ、じじいばばあになる。誰もそれから逃れられない。そのとき、どうすべきなのか。何をすべきなのか。この本は、ワーキングメモリの詳細を語りつつ、それを述べている。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの?』を出版。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった。

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