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【家族読み推奨】可能性の逆転劇。最先端の義足が宝物になる!

義足でかがやく
(著:城島充)
2016.03.28
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読みはじめてすぐ「この本には、人生で一番大切なものがある」と感じました。その大切なものとは「希望」。「希望」という言葉があまりに普遍的すぎるということであれば「可能性」。それがこの本では描かれます。

本書に登場するのは、事故や病気で脚を喪失した人々や、そうした人の挑戦をサポートする人たちです。

膝から上を切断した人の義足を大腿義足。膝の下を切断した人の義足を下腿義足と呼ぶのだそうですが、日本ではこの義足の開発は19世紀後半からはじまった。当初は「歩く機能の回復」を目指していたこの分野が、20年ほど前から大きく変わりはじめた。アルミやカーボン、チタンなどの素材が使われるようになり、また製作技術や、リハビリテーションの技術も進歩した。スポーツ用の義足も開発され、歩くだけではなく、全力で走ったり、登山、スキーなどさまざまなスポーツに挑戦することができる時代がやってきたのだそうです。

私たちも、ニュースなどで、義足をつけたアスリートの姿を見ることがありますが、それは特別な身体能力と努力、そして大きなスポンサーのバックアップがあってのみ実現する世界ではない。技術の進歩と、「走りたい」という希望。そしてそれを「必ず実現する」と信じてサポートする心。それらが合わされば、ごくふつうの少年や少女、そしてもちろん大人も、義足で走ったり、スポーツをすることに挑戦できるものなのだそうです。

実際、この本で描かれるのは、ハンデを超人的な努力で克服した人の物語だけではありませんでした。優れたアスリートも登場しますが、その一方、悪性腫瘍で左脚を切断した少女や、先天的な病いで右足を失った少年たちの悲しみや不安。将来への恐怖は、私たちも自分のことのようにごく自然に共感してしまうものでした。
 
脚を失った若者たちは、最初は悲しくもあり、自分の義足をかっこ悪いとも思い、将来の可能性に不安を感じた。しかし、やがて出会いに導かれ、一歩を踏み出していく。最初からうまく行くは行かず、不安もあります。ですがやがて、どの少年や少女も走ったり、卓球をしたり、サッカーをしたり、友だちと同じように部活に入って活躍をはじめます。そうした若者たちの記録は、今の私が走るよりも速いのです。

すでに義足のアスリートについて、その記録をどう扱うか議論が起こっていますが、今までは「義足のほうが遅いのが当たり前だから、同じレースでは走らない」というのが常識だった出来事が、「義足のほうが早いのは当たり前だから」という議論へと変化してきた経緯は、人間の「可能性」を考える上で凄いことだと思います。
 
考えてみれば、自分の人生で一番大切なことは、「今、ない」ことではなく、将来の可能性が「あるか、ないか」ではないでしょうか。

もっともそんな大袈裟な話ではなくとも、「もっとヒーローみたいなかっこいいのがいいな」という少年の思いや、魚の名前を義足のソケットに書き込んだり、あるいはローファーを履いてみたいという、個人個人の極私的な「可能性」が実現している様子も、読んでいてとても心が動かされました。

本書は、小中学生に向けたノンフィクションを多く収録する「世の中への扉シリーズ」の一冊。著者はノンフィクション作家であり、『にいちゃんのランドセル』『レジェンド』など児童向けの作品でも優れた業績を残す城島充さんです。

「子どもは大人と違ってごまかしがきかない。子ども向けにものをつくるのが一番難しい」とはいいますが、私が印象的だったのは、著者の読者に向けた配慮です。

本書では、日本の義肢装具士の第一人者、臼井ニ三男さんのご活動が、重要なエピソードして描かれます。臼井さんは装具士として、ひとりひとりに向き合い、よりそい、気持をできる限り自分のものとして想像する。そうして装具士として寸暇を惜しんで活動する一方で、義足の人たちの陸上クラブも立ち上げ運営しているそうです。
 
そうした臼井さんが義肢の世界に入ったのは、大学を中退した後、28歳の時。仕事を探して職業安定所に出かけた際、偶然、職業訓練校の看板を見つけ「義肢製作」のコースを知った。それがきっかけとなり当時、東中野にあった鉄道弘済会の「東京身体障害者福祉センター」に見学に出かけ、そこで2日目に「職業訓練校に行くより、今すぐうちで働いてもらえないか」と声をかけられたのだそうです。

臼井さんはこの世界に飛び込んだ後、誰よりも早く出勤し、夜は遅くまで残業して懸命に経験を積んだ。その時「大学をやめたあと、いろんな人とさまざまな仕事をした経験がとても役にたちました」と、本書では述べられます。
 
さりげない記述ですが、私などは「人との関わりが後々の自分につながった」と書き込んであったりするところに、著者の「これから世の中に出ていく子どもたちによいことを伝えたい」という思いを感じます。

もちろん、本書のすべてがそうした思いでつくられているわけであり、自分の家族や大切な人に読ませたい本というのは、こうした本のことを言うだろうと思います。お勧めです。

レビュアー

堀田純司

作家。1969年、大阪府生まれ。主な著書に〝中年の青春小説〟『オッサンフォー』、 現代と対峙するクリエーターに取材した『「メジャー」を生み出す マーケティングを超えるクリエーター』などがある。また『ガンダムUC(ユニコーン)証言集』では編著も手がける。「作家が自分たちで作る電子書籍」『AiR』の編集人。近刊は前ヴァージョンから大幅に改訂した『僕とツンデレとハイデガー ヴェルシオン・アドレサンス』。ただ今、講談社文庫より絶賛発売中。

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