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【コーヒーの科学】本物の美味、わかるようになるには?

コーヒーを1日に5杯は飲まないと落ち着かない! コーヒーは味ではなく、その香りにこそ醍醐味がある! いやコーヒーの醍醐味はその酸味だ! などなど、コーヒーが大好きなみなさんのこだわりポイントはたくさんあることでしょう。
しかし、大好きなコーヒーについて私たちは意外なほど知らないようです。
今日はブルーバックスの人気シリーズ「○○の科学」最新刊『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』を教科書に、みなさんがふだん不思議に思っているコーヒーに関する素朴な疑問について見ていきましょう。

2016.03.20
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コーヒー好きのあなたへ。豆、香り、味、効能を徹底科学した1冊

私たちの生活に欠かせない嗜好品のコーヒー。コーヒーができるまでの過程はもちろん、そのおいしさの秘密やコーヒー豆の歴史、自家焙煎でおいしく飲む秘訣、果ては、気になる健康への影響などなど、コーヒーに関する幅広いトリビアをエスプレッソのように凝縮した1冊をご紹介します。
また、コーヒーの魅力のほんの入り口を覗くくらいではありますが、本文から気になる5つのトリビアを抜き出してみました。ちょっとした話のネタにぜひどうぞ!

  • 電子あり
『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』書影
著:旦部幸博

あなたはどれくらい「コーヒー」について知っていますか? コーヒー豆の産地は? 品種は? 製法は? なにが味を決めるの?
コーヒーの知識やおいしく飲むコツなどを記したWebサイトを主宰するコーヒー好きの著者が、コーヒー好きのために、コーヒーを深く、詳しく理解できるよう書き上げた情熱の1冊です。
“よいコーヒー”の極意を知れば、自分の好みの“おいしいコーヒー”が必ず見つかります!

Q1:コーヒーは苦いのになぜおいしいの?

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ヒトが感じる味(味質)には、甘味、苦味、酸味、塩味(鹹味《かんみ》)、うま味の5種類の「基本味」があり、このうち、ヒトは甘味やうま味を「好ましい味」と認識します。甘味は糖類の、うま味はアミノ酸やタンパク質の味なので、自然界ではこれらの味が濃いものを食べれば、効率よく栄養を摂ることができると考えられます。一方、酸味は腐敗した食べ物や未熟な果物、苦味は有毒な植物に含まれるアルカロイドなどの自然毒に感じる「不快な味」であり、特に苦味は極めて微量で感知される鋭敏な感覚です。これらの不快な味を忌避することで、体に有害な物質を自然に避けられるようになっていると考えられています。また塩味は、程よい場合には好ましく感じますが、海水のように濃すぎる場合には不快な味として忌避されるため、適度な量の塩分やミネラルを摂取することに役立ちます。このように、味覚は自然界に存在するさまざまなものの中から、何を食べて何を食べないかを上手く選択できるよう進化してきた感覚だと考えられています。

生理的に忌避されるはずの苦味においしさを見いだす例は、コーヒー以外にもビール、ゴーヤ、グレープフルーツ、ビターチョコなど数多く見られ、それなりに普遍的な現象だと言えます。もともとヒトは、子供の頃は苦味を嫌う傾向があるものの、大人になるとその中においしさを見いだすようになると言われています。近年の研究では、子供も大人も苦味を感じる能力(苦味感受性)自体には大きな差はないことが判明しており、大人になるまでの食体験の中で、その食品が安全だと学習することで平気になり、味の変化の1つとして楽しむようになるようです。これは苦味だけに限らず、酸味や辛み、渋みなど「本来は忌避される味」全般に共通して見られる現象です。

また親が普段から苦いものを食べていると、子供も安全だと判断するため、受け入れやすくなります。つまりコーヒーをおいしいと感じるには、その人の周囲で社会的、文化的に受容されているかどうかも重要です。例えば17世紀に中東で初めてコーヒーを飲んだヨーロッパ人旅行者は「味は苦く、良い香りがするわけでもないが現地で愛飲されている」と記していますし、日本でも初期に飲んだ大田南畝《なんぽ》(蜀山人《しょくさんじん》)は「焦げ臭くて味わうに堪えず」と評しています。すなわち、それぞれの社会で最初に飲んだ人たちにとってコーヒーは「おいしいもの」ではありませんでした。それが普及するにつれて「おいしい」と認識されるようになっていったのです。

コーヒーを飲んでいくうちに、最初は飲めなかった苦いコーヒーが平気になり、好みがだんだん深煎りにシフトしていく例はよく見られます。しかし、常人では信じられないほどの「激辛好き」の人はときどき目にしても、そこまでの「激苦好き」の人はあまり見かけません。経験で苦味が平気になるとは言っても限界があり、不快に感じる限度(閾値)を越えないことも、おいしく感じる条件の1つのようです。またコーヒーの苦味が平気な人が、他の苦いものまで平気だとは限らないのも面白いところです。普段はあまり意識しませんが、コーヒー、ゴーヤ、ビールなどいろいろな苦味を思い浮かべると、どれも同じではなく、苦味にも味わいが異なるいくつかの種類があるようです。中でもコーヒーには「まろやかな」「すっきりした」「後に残る」など、いろいろな質感の苦味が混在していることが、味ことばから窺えます。これらを総合すると、「苦味のおいしさ」が成立するためには、①飲む人自身の経験や学習、②社会的文化的な受容、③ほどほどの苦味の強さ、④苦味の種類や質感、という要因が関わってくると考えられます。

Q2:コーヒーの苦みの主役はカフェインなの?

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「コーヒーに含まれる成分」と言われて、誰もが真っ先に思いつくのは、何と言ってもカフェインではないでしょうか。カフェインは、コーヒー以外にも茶やチョコレート、マテ茶、ガラナなどに含まれるアルカロイドで、これら多くの嗜好品が持つ覚醒作用の本体でもあります。カフェインには苦味があり、その閾値は100mg/L(0.01%)前後で、コーヒーにはその数倍から10倍程度の濃度が含まれています。このことから、かつてはコーヒーの苦味はカフェインによるものだと信じられていました。しかし、コーヒーの苦味は焙煎に伴って強くなっていくのに対して、カフェインの量は変化しないことから疑問視されるようになり、さらにカフェインレスコーヒーが発明されると、カフェインを除去したコーヒーも十分に苦いことが判明して、カフェイン以外の苦味物質の方が重要なことが明らかになりました。その後の研究から、コーヒーの苦味全体の1~3割をカフェインが担っていると考えられています。

カフェインが苦味の主役でないならば、本当の主役はいったい何なのでしょう? 2006年、ミュンヘン工科大のトマス・ホフマン教授らはそれを突き止めるため、ある実験を行いました。生豆に含まれるいくつかの成分をそれぞれ単独で加熱したとき「コーヒーらしい苦味」になるかどうかを検討したのです。その結果、もっともコーヒーに近い苦味を示すのはクロロゲン酸の加熱物でした。糖類やアミノ酸の加熱物も苦かったものの、コーヒーとは異質な苦味であり、またカフェー酸の加熱物は、エスプレッソに用いる深煎りのコーヒーに似た苦味と渋み(苦渋味)を示しました。さらに彼らはクロロゲン酸とカフェー酸の加熱物から、それぞれ「クロロゲン酸ラクトン類(以下CQL)」と「ビニルカテコール・オリゴマー(以下VCO)」という、新しい2つの苦味物質のグループを発見し、これがコーヒーの苦味の中心を担うものだと報告しました。どちらも苦味の閾値は10~20㎎/Lで、カフェインの10倍ほどの強い苦味を持ち、実際のコーヒー中には、普通のコーヒーにもカフェインレスにも、閾値の40倍近い濃度で溶けています。どちらの成分も生豆からは検出されない、焙煎によって生じる物質で、CQLが先に増加して中煎りをピークに減少していき、それと入れ替わりにVCOが増加します。

Q3:自分好みのコーヒーはどうやって探せばいいの?

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大半のコーヒー店では、いろいろな産地の豆を配合したブレンドの他、単一の産地の豆だけを使ったもの(ストレート)が「ブラジル」「コロンビア」などの生産国名や「モカ」「マンデリン」などの銘柄名で売られています。しかし生産国と焙煎度による違いで比較した場合、より香味の違いがはっきりと現れるのは焙煎度です。カンザス州立大のグループが主成分分析という統計的手法で香味の違いをマッピングした結果、エチオピア、エルサルバドル、ハワイの3ヵ国の豆を同じ焙煎度にしたものと、どれか1つの国の豆を異なる焙煎度に煎りわけたものでは、前者がより狭く、後者がより広い範囲に分布する傾向が認められました。他のグループからも同様の結果が出ています。いろいろな生産地の豆を同じような焙煎度にするよりも、1つの生産地の豆を浅煎りから深煎りに煎りわける方が、香味は多様に広がるのです。

あくまで初心者向けの提案ですが、最初は定評のあるコーヒー店で浅煎り、中煎り、中深煎り、深煎り……と飲み比べ、自分好みの焙煎度を見つけ、そこを中心に飲み比べてみてはどうでしょうか。店や豆の種類によって多少のずれがあることも念頭におきながら香味の違いを意識するようにすれば、特徴が摑みやすいと思います。また店の人にオススメを尋ねたときも「苦味とコク」の深煎りと「酸味と香り」の浅煎りのどちらが好きかを訊かれることは多いので、そのどちらが好きかを把握しておくだけで、自分好みのコーヒーに出会える機会がぐっと増えるでしょう。

Q4:焙煎したコーヒー豆をおいしくなるように挽きたいんだけど……

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焙煎豆を丸ごと水に漬けても、成分はなかなか溶け出しません。まずは豆を粉砕(グラインディング、挽砕《ばんさい》)して顆粒~粉状にする必要があります。ただ硬いだけの生豆とは異なり、焙煎豆では細胞壁が「硬くて脆く」変化しているため、力を加えると容易に砕け、空隙内部のどろどろが、砕けた粉の表面に露出します。このどろどろは、コーヒーの色や香味の成分が油脂分などと混じり合ったもので、抽出時にはここにお湯が接して成分が溶け出てきます。豆を粉砕すると抽出されやすくなる一方で、香りの飛散や成分酸化も早くなり、豆のままのときよりも5~10倍くらい劣化が早くなると言われます。できるだけ抽出直前に豆を挽くのは、数ある「おいしく淹れるコツ」の中でも、鉄則中の鉄則です。

コーヒー専用のミルの多くは、破砕を繰り返して一定以下の大きさになった粉から、外に出ていく仕組みになっており、挽き具合が調節できるようになっています。むしろこの部分の構造や性能、メンテナンス状態の違いによって、粒度のばらつき具合が左右されます。特に非常に小さな微粉の割合が増えると、比表面積が増える分「まずい成分」まで出やすくなったり、また濾過で完全に除けないため舌触りが悪くなったりと、あまり良いことはありません。手間はかかりますが、挽いた粉を茶こしやふるいにかけて微粉を除き、粉の大きさ(メッシュ)を揃えると驚くほど味が変わるので、ぜひ一度試してみてください。

Q5:コーヒーを飲むことのメリット/デメリットは?

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短時間のうちに大量にコーヒーを飲んだとき、望ましくない生理反応が心身に現れることがあります。これはカフェインの過剰摂取による急性の中毒症状で「カフェイン中毒」と呼ばれます。このカフェイン中毒という言葉を、カフェインの常用やカフェイン依存の意味で使う人がいますが、医学上は正しくありません。現在「中毒(intoxication)」は急性の有害作用を指す用語であり、例えばアルコールでも、昔は「急性アルコール中毒」「慢性アルコール中毒」という言葉がありましたが、後者は現在「アルコール依存症」と呼ばれています。

カフェインの大量摂取は、不安や不眠などの精神症状や、手足の震え(振戦)、動悸、胸焼けなどの身体症状を引き起こすことがあります。精神疾患診断の基準の1つ『DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)』では、カフェイン250mg以上を摂取し、神経過敏や顔面紅潮などの12の診断項目のうち5つ以上に当てはまる場合を「カフェイン中毒」としています。DSM-5ではコーヒー1杯をカフェイン100~200mgに概算するため、「一度にコーヒー2~3杯以上飲んだら症状が出ることがある」という計算です。なお、これは診断上の見落としがないよう厳しめの数値になっているので、この量で誰にでも必ず症状が現れるというわけではありません。

カフェインの急性中毒は通常、何もしなくてもその日のうちに回復し、特に目立った後遺症もありません。ただし極めて大量に摂取したときは救命措置が必要な場合もありますし、ごくまれに命を落とす例も報告されています。このほとんどはカフェイン錠剤の大量服用によるものです。カフェインのヒト致死量は5~10g程度と言われていますが、50g以上での生還例や、重度肝障害の人が1gで亡くなった例もあり、かなりのばらつきがあります。ただ通常は、コーヒーで致死量を摂るには50杯以上を一気飲みしなければいけない計算になりますから実際問題不可能に近く、事実、コーヒーの大量飲用による死亡例は過去には見当たりません。

カフェインを使ったこんな実験があります。

まず被験者である学生に、1桁の数字を足し算するだけの算数ドリル(内田クレペリン検査など)を渡し、15分間で可能な限りの問題を解かせます。その後5分の休憩中に、学生の半数には普通の、もう半数にはカフェインレスのコーヒーを、本人にはどちらかわからない状態で飲ませ、また同じテストを行うのです。両グループの休憩後の成績を比べると、カフェインを摂取した学生の方が、解いた問題数と正答率、どちらも高くなる傾向が見られます。

ただし、これはあくまで単純計算の繰り返しでの話。それまで解けなかった難問の答えをぱっと閃くわけではないですし、コーヒーを飲めば勉強しなくても試験で良い点がとれるなんてこともありません。

また、最近、記憶に対するカフェインの新たな可能性が報告されました。2014年、ジョンズ・ホプキンス大学のグループが、被験者に何枚かの画像を見せて記憶させた直後に200mgのカフェインまたは偽薬(プラセボ)を与え、翌日どれだけ覚えているかを確認する実験を行いました。実験の結果、カフェインは想起には影響しなかったものの、記憶の定着を強化すると報告されました。まだまだ他のグループの追試が必要ですが、今後注目が集まりそうな研究テーマです。

今日の本:『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』

著:旦部幸博
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コーヒーのほかにも、こんな身近な食べものを科学する本があります。お酒をたしなむ方ならぜひ好きなお酒のうんちくを仕入れてみませんか? また、子どもから大人まで大好きで毎日の食卓に欠かせない、穀物や牛乳、タマゴも、全部まとめてこの機会に科学してみましょう!

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