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【衝撃】マジ貧! 芸人たちの下積み生活を聞いてみた

芸人貧乏物語
(著:松野大介)
2016.02.21
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実に活きのいいインタビュー集です。話されるのは下積み時代の貧乏生活のあれこれ。みなそれに負けることなくタフに生き抜いているのがよく伝わってきます。自分の芸に対する愛情やこだわりが芯にあるからできるのでしょう。

とはいっても、中央線沿線で石を投げれば「芸人志望者に当たる」というほど「役者とミュージシャンに肩をならべて芸人がある」というご時世です。まだまだ下積みで苦労している人のほうが圧倒的に多いのが芸人さんたちの世界。なかなか貧乏生活にお別れをすることはできないようです。この本に登場する芸人さんたちの貧乏への奮闘ぶりには驚かされます。バイトの掛け持ち、借金は当たり前という中で日々頑張っているのです。

貧乏と格闘している芸人さんたちがどんなところでネタ作りをしていたかというと、たとえばチキチキジョニーの石原さんは「トイレ共同の1間で家賃1万9000円のボロ。エアコン取り付けたらヒューズがすぐ飛んだ(笑)。ある夜、ギシギシと音がして『ナニナニ?』と目を覚ましたら、雨水が天井の1ヵ所にたまって反ってる。すぐに重さに耐えかねて天井が破れて泥水がドバーッと落ちてきた!」、そんな部屋で猛練習の日々でした。

売れない頃のサンドウィッチマンの2人は同居していた部屋で「蒲団並べて仰向けのままネタ」の練習をしていたそうですが、その部屋は「天井にクモの巣があったし、ゴキブリは当たり前。なんとネズミも出ました!」という古アパートでネズミに翻弄されることもあったそうです。ネタおろしの最初の客がネズミだったのでしょうか。

狭くても、古くてもアパートが借りられるのはまだいいほう。
「うちの事務所が持ってる渋谷の小劇場に『掃除するならいいよ』って条件で1ヵ月半住まわせてもらった。舞台袖のカーテンを毛布にして客席のベンチシートで寝てました」(弾丸ジャッキー・テキサスさん)。同じように事務所の小劇場に住まわせてもらったのがハリウッドザコシショウ。こちらは「小劇場といっても地下のですから地獄の2年間ですよ!」という生活。食事も他の人の「ライブ終わって舞台で打ち上げしてる食べ物の残り」をもらっていたそうです。しかもそのライブが「後輩ばかりになってきて」と話すあたりに、売れる・売れない芸人の世界の厳しさが浮かんできます。

友人との同居はよくありますが、同じ同居でも、「家賃が払えず、アパートを引き払って公園で寝たり漫画喫茶に泊まったりして」いたところ事務所の先輩に助けられ住まわせてもらったという話も出てきます(たんぽぽ・川村さん)。しかもその先輩、くわばたりえさん(クラバタオハラ)は新婚だったそうです。くわばたさんの人柄の良さが感じられる話です。

住がそうなら食はというと、お米だけはあったので醤油で炒めたお米をおかずにご飯を食べたり、百均パスタとマヨネーズだけを食べていたとか、なかなかすさまじいものがあります。バイト先のコンビニからもらってきた廃棄弁当などがなによりのごちそうだったりする生活だったのです。

バイトも千差万別です。数え上げたらきりがありません。もちろん掛け持ちバイトはあたりまえ、なかにはバイトに集中(?)して麻雀やパチンコの腕が上がってプロ並みになった芸人さんまでいます。芸人さんのバイトの最大の悩みは、オーディションのため、しばしば休まなきゃいけないこと。それが理由でクビになる人がどれだけ多いか……。

彼らにとって目標はなんといっても「M-1グランプリ」や「THE MANZAI」に出場することです。それだけでグッと営業が増えて借金が返済できるほどだそうです(タイムマシーン3号)。でも、それがゴールではありません。出場してプチブレークしても元の貧乏に戻った芸人さん(磁石)もいるからです。油断大敵とでもいえばいいのでしょうか……。やはり売れるってことの難しさが伝わってきます。運というもの、巡り合わせというものもあります。芸がなければもちろんダメですが、それだけでもダメという世界なのですから。

笑いながら読んでいると芸人生活の大変さだけでなく、松野さんが書いているように「芸人はつらいことを笑い飛ばせる強さを持っている」ということが伝わってきます。バイト先にも優しい人、彼らを応援する人も出てきてどこかじんわりと心が温まるように思えます。つらいことをもネタにできる芸人さんの力強さすら感じます。私たちも頑張らなきゃ、という気持ちにさせてくるものが、ここにはあります。

貧乏芸人生活の大先輩だった故・古今亭志ん生師がこんなことをいっていました。「貧乏はするもんじゃありません。味わうものですな」と。この本に登場する42組(ピンの人もいますが)の芸人、それそれが自分の貧乏を味わって、ネタ作りに精進しているのでしょう。彼らの奮闘ぶりを知って、ライブを見るというのもいいかもしれません。違った魅力を発見できるのではないでしょうか。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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