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本当に本当に本当に、眠りたい?「不眠・快眠の都市伝説」

2016.02.19
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眠らなければいけないのに眠れない、明日は大事なことが控えているのに……。眠らないと疲れがとれない、でも気持ちがあせるだけでいっこうに眠気はやってこない……。そうこうするうちに外は白々となってきて朝がきてしまう……。と思ったらいきなり眠気がやってきて、あげくの果ては遅刻……。という経験は誰も1度や2度は覚えがあると思います。

現代病ともいえる不眠に悩まされずに、快眠できるにはどうすればよいのかをわかりやすく解き明かしているのがこの本です。快眠できるための実践的なヒントがあふれています。

さまざまな種類が売り出されている快眠グッズを見るにつれ、不眠に悩まされている現代人がいかに多いかを実感します。ストレス社会に生きている宿痾(しゅくあ)なのでしょうか……。しかも枕をはじめ快眠グッズの効果には個人差がとてもあります。自分にあったものを見つけるのにもひと苦労です。

なぜ効果にこんなにも差が出てくるのでしょうか。それは「不眠症は非常に『主観的な』病気」だからです。「客観的にみていくら眠れていても、患者さんご本人が『眠れない』ことで苦しんでいれば不眠症ということになりますし、逆に短時間しか眠っていなくても本人が訴えなければ不眠症とはいえない」からです。このへんが不眠症の難しいところでしょう。しかも「直接『こころ』に直結するものですからコントロールが難しい部分」もあります。

不眠症は主観的なものだとはいっても「睡眠のしくみ」と「覚醒のしくみ」を知らなければその睡眠障害の原因をつかめることにはなりません。そのしくみを知るには脳の働きを知る必要があります。脳の睡眠をつかさどる部分と覚醒をつかさどる部分のバランスが崩れて生じるのが不眠症というものだからです。この本では、睡眠・覚醒のしくみに関係する脳の働きはどうなっているのか、脳のどの部分が関係しているのか、さまざまな図を用いてとてもわかりやすく説明されています。

不眠のメカニズムで興味深いのは扁桃体の働きです。パブロフの犬で有名な「条件付け」をつかさどっているのがこの扁桃体と呼ばれる部位です。私たちは、眠れないという苦痛が続くと、「眠るという行為自体が恐怖や不安になってしまうこと」になり、扁桃体から覚醒をつかさどる部分に「信号が送られ、目を覚ましてしまうという悪循環」が生まれるのです。「いわば『不眠恐怖』が存在」するようになってしまいます。これが眠らなければならないと思うほど眠れなくなる「過覚醒」というやっかいな現象です。

「眠れない不安」「不眠恐怖」というものは「眠れないことそのものに意識が向きすぎてしまう」ことから生まれるものです。ですから、逆にいえば「不眠は患者さんの精神の置き方に強く影響を受けるので、少しの意識の改善が症状の大きな改善をもたらすことがある」ということになります。不眠症は主観的な病気と考えられているのですから「ものの見方や考え方を変えて『眠るスキル』を鍛えることができれば、眠れるようになると考えられます」。

それが「認知行動療法」です。これはひと言でいえば「眠気が訪れるまでは『眠らないように』努力してみようという訓練」をするということです。ただし重要なことはひとつ、「起床時間をずらさないということ」です。そして「少しでも眠れたのだから大丈夫。よしとしよう、と評価するような訓練」です。この療法は「努力は必要ですが、薬物療法に匹敵する、あるいはそれ以上の効果を上げることが知られて」いるそうです。

「薬物療法」については処方される薬の特性を中心に紹介されています。さまざまな睡眠導入剤がありますので、この本に収められた、個々の薬の作用時間が入った不眠症治療薬一覧表はとても便利です。薬については、櫻井さんは、「薬物治療も『眠れた』という成功体験を経験する一助としてとらえたほうがよい」ということもいわれています。薬を対症療法としてとらえるだけでなく「服用をきっかけに『眠れた』と安心できたり、自信がついたりすることで、眠ろうとするほど目が覚めるという悪循環を断ち切ること」ができるようになることも重要だということです。

「本当に『よい睡眠』をとるには?」と題された章で櫻井さんはちまたに出回るさまざまな睡眠についての「神話」の検証を行います。「体内時計25時間説」「睡眠の『ゴールデンタイム』(午後10時から午前2時までの時に眠ると健康にいいという説)」「昼寝の効用」、さらにはかつてもてはやされた「睡眠学習法は効果があるのか」まで、ひとつひとつ丁寧に「神話」を解きほぐしていきます。

私たちが思い込んでいるもののほとんどに科学的な根拠はないそうです。ですが、科学的な根拠はなくても効果があることも指摘されています。「何の効果もないはずの薬を『効果のある睡眠薬』だと信じて飲むだけでも、睡眠の導入は改善される傾向が強いのです」と。これも不眠症が「主観的な」病気で、「安眠に関しては、『信じるものは救われる』という面が少なからずある」からなのです。

ユーモラスなイラストを含めて読みやすく分かりやすいエッセイ風でありながら、脳の機能、睡眠障害のさまざまな症例のついて本格的な説明をしているこの本は不眠症に悩む人には必読だと思います。快眠グッズを選ぶ前にまず読んでみてください。巻末には櫻井さんが提唱する「眠るスキルを上げる8ヵ条」があげられています。寝室での過ごし方から始まる快眠心得とでもいえるものです。難しいことではありません。この本を読んでぜひ実践してください。心身がリフレッシュできる快眠の第一歩になると思います。

ところで、こんな気になる一文がありました。「じつは、いつも就寝する2~3時間は、もっとも眠りに就くのが困難な時間帯でもあるのです」というものです。寝つきの良し悪しに悩むことの前にこの言葉を思い出すと安心しませんか。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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