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長い歴史のなかで、労働とは体を動かすことを指しました。ところが、20世紀の後半から日常業務にパソコンが取り入れられたり、ひとりが受け持つ業務範囲が広がるなど、仕事のあり方そのものが変化したことで、労働は「頭を働かす」ことがメインとなってきました。
肉体労働なら疲れた体を休ませれば、翌日また元気に仕事をすることができましたが、最近では寝ても疲れがとれないばかりか、眠れない、焦る一方でやる気が出ないなど、疲れの種類までもが変わってきてしまったのです。
現代人のストレスは「脳疲労」。その背景にはIT疲れや長時間頭脳労働が……
「脳疲労」とは、「脳の働きのひとつである集中力や判断力が低下して、通常の就労や生活に支障をきたす状態」をいいます。
20世紀後半にサービス業や小売業が増加し、IT革命が起こりました。この変化と革命は、私たちの勤労条件を変化させました。これまで体を動かせばよかった勤労の条件が、「頭が働く」ことにシフトしたのです。どんなに体力に自信がある人でも、対外交渉やパソコン業務ができないと仕事になりません。つまり、大半の業務が「脳を使う」時代に変わってきたのでした。その結果、疲労が生じる部位が「肉体」から「脳」へと大きく変質したのです。
労働時間の増加も「脳疲労」を引き起こします。厚生労働省の調査による労働時間の推移を見ますと、1987年に月間175.9時間を記録して以来減少をたどり、2014年には月間149時間となっています(事業所規模30人以上)。所定外労働時間は2014年には月間12.8時間になっていると報告しています。
一方、NHKの国民生活時間調査では、40代、50代に睡眠時間の減少と勤務時間の増加が認められています。若干矛盾する調査結果からはサービス残業が多くの企業で行われている実態が浮かび上がってきます。診療の現場においても、長時間労働やサービス残業で多くの勤労者のストレスが高まっている話が聞かれます。
労働時間が長ければ、当然、脳の過活動が続きます。脳の過活動によって睡眠障害が起こります。睡眠の質も悪くなれば、疲労が回復せずに脳の働きはペースダウンします。こうなると仕事の能率は悪くなり、業務に時間がかかるようになります。積極的に参加していた会議もうっとうしくなってきますし、会議が長時間になれば以前にも増して疲労を感じやすくなります。管理職であれば、部下に対してもゆとりがなくなり、細かい指導が面倒になってくるでしょう。
「脳疲労」の状態が続けば、さらに疲労が蓄積して頭が働かなくなる「脳不調」になります。うつ病寸前の段階である「前うつ病状態」です。脳疲労にいち早く気づき、本人はもとより職場や家庭でもストレスを緩和する対策が求められます。
どんな人が「脳疲労」に陥りやすいのか
『「脳疲労」社会 ストレスケア病棟からみえる現代日本』の著者であり、日本で初めてストレスケアの専門病棟を開設した徳永雄一郎不知火病院院長によると、高いストレスを受け、「脳疲労」が起こり、体調を崩して休職となるケースが多いのは、学校教師や公務員、IT企業のSE(システムエンジニア)などだそうです。
また最近では、看護士や介護士なども「脳疲労」度が高くなっているようです。高齢者の入院比率が高くなっているために医療上の処置が増え、寝たきりで生活全般に関わりが必要になってきているので、必然的に業務が増えているのです。
以下は、実際に「脳疲労」の症状が出た人たちの業務実態を記したものです。あなたにも当てはまることはありませんか?
例えばこんな人が……
長時間労働やモンスターペアレントによる疲労
ベテランの中学校教師だったAさん(48歳)。残業や休日出勤も多くなり、帰宅時間は夜10時を越えることも珍しくなかった。彼が教師になった20年くらい前にはまったく考えられなかったような、保護者からの度を超したクレームも増えていた。
学期末の通知表を作成しているときに、生徒ひとりひとりにコメントを書くのに遅れが出始め、生徒の1年間の行動さえもイメージできなくなってきたことに気づいた。ひどく肩がこり、頭痛もして、後頭部が詰まった感じがあった。
結局、Aさんは勤務不能となり、休職することとなった。
クレーマーによる疲労
アパレル会社営業職のBさん(37歳)は、管理職に昇格してから、部下では対応困難なクレーム処理の対応を引き受けることとなった。Bさんが引き継いだのは社内でも有名な問題顧客であった。
次第にBさんは仕事が手につかなくなり、脳裏にいつもクレーマーの顔が浮かぶ状態に。集中力がなくなり、脳疲労の状態に陥った。
「デキる社員」への業務一極集中化
福祉関係に勤務するCさん(38歳)は、自他ともに認める“デキる社員”。常に自分の評価を意識し、期待を裏切らないように振る舞っていたが、社員向けのスポーツ大会の企画運営役を振られたときに異変が起きた。
業務のあとに企画をするので疲労がたまり、次第に集中力や能率が低下するように。これまで自分の感情を職場で出すことは決してなかったのに、ついにイライラしてボールペンを机に投げつけるほど、感情を爆発させてしまっていた。
優秀な社員は仕事を早く、確実に処理できるため、上司や部下から業務をふられてしまいがちである。本人が真面目であれば性格上断れず、仕事の一極集中が起きて脳疲労につながってしまうという一例である。
あなたの脳は大丈夫? ストレスチェックで「脳疲労」を見分けよう
それでは、実際にあなたの脳がどれくらい疲れているかを見てみましょう。
以下に40項目のストレスチェックリストを示します。それぞれの項目にあてはまる箇所のラジオボタンをクリックし、最後に[点数を計算する]ボタンをクリックします。
あまり深く考えずにチェックしてみましょう。
脳が疲れ、前うつ状態になっていることを「脳疲労」といいますが、この「脳疲労」に陥っている労働者の数は、実に約1,000万人とも言われています。勤勉で責任感が強い人ほど、そうした症状に陥る可能性も高く、判断力や集中力が著しく低下し、さまざまな身体症状が出てきて、ついには仕事に行くことすらできなくなってしまうのです。
本書は、日本で初めてストレスケアの専門病棟を開いた著者が、現代社会にはびこるストレスの原因や対策を、実例をまじえて丁寧に綴ります。
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