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ファンタジー巨編「戦地調停士シリーズ」、万人ウケの理由

殺竜事件
(著:上遠野浩平)
2016.01.23
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ファンタジーとミステリーが融合した「戦地調停士シリーズ」の記念すべき第1作目。魔法原理が支配する本シリーズにおいて、竜は絶対的な存在です。どう頑張っても人間に殺せるはずがない。ところが、殺竜(さつりゅう)のタイトル通り、その竜が殺されてしまう。

成り行きで竜殺しの解明に乗り出したのは、仮面の戦地調停士、エドワース・シーズワークス・マークウィッスルことED(エド)。レーゼ・リスカッセ大尉にヒースロゥ・クリストフ少佐の3人。 彼らは、竜と面会した〝容疑者〟たちから話を訊くために、旅に出ます。

まるでラプンツェルのように、塔の最上階で暮らす孤独なお姫様。
〝パラレルワールド〟の研究者たちが集う港町。
海賊が支配する都。
竜が棲まう荒野。
そして、暗殺者が身を潜める魔法呪文に汚染された森──。

もうこれだけで、子供の頃から大人になった今でもドラゴンクエストやファイナルファンタジー的な絵空事が大好きな僕などは、反射的にわくわくしてしまう。
 
不可解な謎の解明を目的にストーリーが進む本作品は、肝心の謎解きはもちろん、むしろそうした旅中のエピソードにこそ物語的な魅力が詰まっているのかもしれません。EDたちは行く先々で〝小事件〟に遭遇します。その解決には知恵を使ったものから、剣と魔法によるバトルで決着をつけるものまで、まさしくロールプレイングゲームのようで、テレビゲーム的な冒険活劇の魅力に溢れている。

しかしそうした作品を執筆することは、こうして言葉で書くほど簡単なことではないでしょう。読者の期待に応えうる壮大な世界観を構築し、その世界観に負けないだけの個性的な登場人物たちを想像する。剣と魔法のファンタジーはゲームを中心に作品点数が多いため、えてしてマンネリ化しがちで、そのため飽きが来ないプロットも考えなくてはなりません。それだけでも大変なことなのに、著者の上遠野浩平さんは謎解きとファンタジーを高水準で両立させてしまった。
 
その技量に舌を巻きます。
 
だから、所詮はファンタジーとの〝重ね技〟で評価されているミステリーなんだろう、と読まずに決めてつけている推理小説のファンは、侮るなかれ。本作は確かにファンタジーの設定を利用しているものの、推理小説としても一級品です。

竜は誰に殺されたのか? なぜ殺されたのか? また、真実殺されたとすれば、どのような方法が用いられたのか? それらフーダニット、ホワイダニット、ハウダニットの解明に挑戦するEDが、なぜ仮面をつけているのか──その理由かもしれないことにも本作では少しだけ触れられています。

「戦地調停士シリーズ」はこの『殺竜事件』に始まり、『紫骸城事件』『海賊島事件』『禁涙境事件』『残酷号事件』と続き、最近になって『無傷姫事件』が刊行された壮大な物語です(さらには次の作品まで……)。それでいて凄いのは、このシリーズはどの作品から読んでも楽しめるところ。

ミステリーとファンタジーが好きなら、「戦地調停士シリーズ」は読まなければ損。順番通り(刊行順に)読みたいという方は、意外な真相に加え、絶対的な力を持つ竜と人間との間に生じた悲しい物語でもある『殺竜事件』をどうぞ。決して謎解きだけで終わらないのも、「戦地調停士シリーズ」の魅力のひとつです。

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『殺竜事件』書影

レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。

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