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「変愛小説」名作10選。切実であるほどに、愛は異形になってゆく

執着する愛。フェティッシュな愛。人ならぬものへの愛。幻想世界の愛――。
深く、濃く、そして“変”な愛のかたち、それが「変愛(ヘンアイ)」。
こんなにも変な愛のかたちを表現できるのは文学ならでは。
講談社文芸文庫は「変愛」の宝庫! 厳選変愛小説10冊をご紹介します。

2016.01.14
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金魚と老作家のシュールな愛

  • 電子あり
『蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ』書影
室生犀星

ある時はコケティッシュな女、ある時は赤い三年子の金魚。犀星の理想の“女ひと”の結晶・変幻自在の金魚と老作家の会話で構築する艶やかな超現実主義的小説「蜜のあわれ」。凄絶なガン闘病記「われはうたえどもやぶれかぶれ」、自己の終焉をみつめた遺作詩「老いたるえびのうた」等、犀星の多面的文学世界全てを溶融した鮮やかな達成。

生涯最高の活動期ともいうべき晩年の名作5篇を収録。

映画「密のあわれ」 2016年4月1日公開予定。 公式サイトはこちら!

「食」という魔物といのち

『食魔 岡本かの子食文学傑作選』書影
岡本かの子

命の意味を問う食にまつわる究極の食文学選。毎晩泥鰌をねだりにくる老彫金師と女将の秘められた情念を描いた「家霊」。食という魔物に憑かれた男の物語「食魔」ほか、「生命とは何か」を問う小説、随筆を精選。

性と死をめぐる知覚の乱舞

『水晶幻想/禽獣』書影
川端康成

鏡の前の女の意識の流れ、性をめぐる自由奔放な空想と溢れるイメージの連鎖を結晶化させた実験小説「水晶幻想」。亡き恋人を慕い〈輪廻転生〉を想う女の独白「抒情歌」。生きものの死を冷厳に見据える“虚無”の視線「禽獣」「青い海黒い海」「春景色」「死者の書」「それを見た人達」「散りぬるを」ほか、前衛的手法の見られる初期短篇8篇。“死への強い憧憬”を底流とした著者の文学の原点。

高嶺の花へのピュアな執着

『泡/裸木 川崎長太郎花街小説集』書影
川崎長太郎

川崎長太郎には、小田原の花街・宮小路を舞台にした〈小津もの〉と呼ばれる一連の作品がある。スター的映画監督・小津安二郎と三文文士・長太郎が、ひとりの芸者を巡り対峙する。長太郎に勝ち目はない。ひたすら〈純情〉を武器に、小津の独身貴族的不誠実を衝く。小津自身に読まれることを見越した如く書かれた挑戦的な戦前・戦中作9篇に、ヒロインのその後を辿る戦後作を加え全10篇を収録。半数は単行本未収録。

脚フェチ文学の金字塔

『金色の死 谷崎潤一郎大正期短篇集』書影
谷崎潤一郎

江戸川乱歩の「パノラマ島綺譚」に影響を与えたとされる怪奇的幻想小説「金色の死」、私立探偵を名乗る見知らぬ男に突然呼びとめられ、妻の死の顚末を問われ、たたみ掛ける様にその死を糾弾する探偵と、追い込まれる主人公の恐怖の心理を絶妙に描いて、日本の探偵小説の濫觴(らんしょう)といわれた「途上」、ほかに「人面疽」「小さな王国」「母を恋ふる記」「青い花」など谷崎の多彩な個性が発揮される大正期の作品群7篇。

限りなく増殖する関係性

  • 電子あり
『かかとを失くして/三人関係/文字移植』書影
多和田葉子

群像新人賞受賞作を含む初期中編3作。

独特な作風と言語・文化への鋭く繊細な洞察から生まれる多和田ワールドの魅力が横溢する作品集。

女に去られた男の情痴

  • 電子あり
『黒髪/別れたる妻に送る手紙』書影
近松秋江

京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる転末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」

明治9年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和19年没した破滅型私小説作家の“栄光と哀しみ”。

男を誘いかつ拒む女たち

  • 電子あり
『槿』書影
古井由吉

男の暴力性を誘発してしまう己の生理に怯える伊子。20年も前の性の記憶と現実の狭間で揺蕩(たゆた)う國子。分別ある中年男杉尾と二人の偶然の関係は、女達の紡ぎ出す妄想を磁場にして互いに絡み合い、恋ともつかず性愛ともつかず、「愛」の既成概念を果てしなく逸脱してゆく。濃密な文体で、関係の不可能性と、曠野(こうや)の如きエロスの風景を描き切った長篇。

第19回谷崎潤一郎賞受賞。

文豪たちの濃すぎる恋文

『手紙読本』書影
選:江國滋 編:日本ペンクラブ

石川啄木が友人の金田一京助宛に、長男の死を告げながら葬儀用に羽織袴の借用を頼む手紙。夏目漱石が饅頭を貰ったことへの礼状に、饅頭の俳句を添えて。内田百けんが借金を請う無心状。谷崎潤一郎の赤裸々な恋文。太宰治が芥川賞を懇願する手紙。福沢諭吉が我が子に送った人生のアドバイス。正岡子規が弟子の高浜虚子に与えた厳しい訓戒。二葉亭四迷、森鴎外の遺書……。一通の手紙に表れる作家の知られざる素顔や、作家同士の興味深い交友関係。

名編集者・江國滋が86通の手紙を厳選し、手紙の内容ごとに寸評を加えたアンソロジー。

禁断の愛の官能美

『薔薇くい姫/枯葉の寝床』書影
森茉莉

自分のことにしか興味が持てない著者が、現実との感覚のずれに逆上して《怒りの薔薇くい姫》と化し、渾然一体となった虚構と現実が奇妙な味わいを醸し出す「薔薇くい姫」、男同士の禁断の愛を純粋な官能美の世界にまで昇華させた「枯葉の寝床」「日曜日には僕は行かない」の3篇を収録。

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