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大河ドラマの舞台「大坂の陣」。歴史作家4人が魅力を語る

2016年NHK大河ドラマ大河『真田丸』で注目される「大坂冬の陣・夏の陣」を描いた、歴史アンソロジー小説『決戦!大坂城』。戦いに関わった人々を、それぞれの視点で書き上げた、4人の作家が語る合戦の背景とその魅力。

2016.01.14
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大坂の陣 合戦地図

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『決戦!大坂城』

定価:本体1,600円(税別)

淀殿、真田幸村、豊臣勝頼など「大坂の陣」に関係する人物の視点から、 裏にあった人間関係や思惑を、7人の作家が描き分ける。 人気「決戦!」シリーズ第2弾。

冲方: 今回の『大坂城』の武将たちはある種楽しげですよね。勝敗は見えきっている分、手練手管で自分をいかに立たせるかというところに腐心していたように感じます。ザ・ラスト・オブ・戦国、いま!

木下: なんとなく、高校野球の甲子園9回裏ツーアウトな感じですよね。ホームランが出ても絶対に勝てない、でも一塁にヘッドスライディングするような清々しさを感じてしまいます。もう勝ち負けじゃない。

冲方: でも結果は死屍累々なんですよね。お前らのせいで何人が死んだんだ、という。

天野: 皆が皆、後先を考えていない。エゴがすごく渦巻いているような感じです。

冲方: そういう意味ではすごい集団が十万人も大坂城に集まっていた。取り囲んでいる方も怖くなりますよね。こいつら皆殺しにしないとヤバいぞ、と。実際、大坂での死者の数が尋常じゃない。

木下: そんな状況のなかで、冲方さんの秀頼はやっぱり戦わない。大坂方の人間たちとのコントラストがすごく上手いですよね。史実とはいえ人物配置がドラマでつくったように効いています。

冲方: 史料によると戦闘に参加したこともあるらしいんですが、ただ具体的には残っていないんです。馬術と剣術、弓術は達者だったようで、一度だけ外に出てしまって慌てて引き戻されたことがあったようです。それは例外中の例外で基本は見守るだけ。日本の精神性で統べる君主はある種女性っぽい。武将たちを見送り、帰ってきたら労う。家康のほうがよっぽど危ない橋を渡っています。

木下: 死にたがりの不良たちを見守るような感じだったんですかねえ。天野 武将たちとの会話がほとんど残っていないのが残念で、話が嚙み合ったのかが気になるところです。

冲方: 多少はあったと思うんですよね。でも上方の主従関係ってどういうコミュニケーションをとっていたのか……。豊臣家って半分は公家ですからね。

木下: そういう人たちにしてみたら、牢人衆ってホームレスみたいなものじゃないですか。野で生きてきた者と公家のような者が一緒になって戦い、一年もったというのがすごい。異文化集団が基本的には裏切りもなく最後まで戦い抜くんですからね。

乾: ならず者にとって豊臣家=公家というのはわかりやすい象徴ですから、気持ちがひとつになりやすかったんでしょうか。

冲方: でもお互いに従うことはない。皆、己のモチベーションで見せ場をつくるために戦っていますからね。そこは徳川勢とは違います。

天野: 徳川方にとってはそんなに意味のある戦いではなかったと思います。領地がもらえる見込みもないし、せいぜい名声が得られるかどうか。でも、忠直は祖父・家康から前に出るなと言われながらも、冬の陣の真田丸攻めで一番乗り争いに出るんです。家康への意地とか、初めての大戦で華々しい手柄を立てたいとか、二代目には彼らなりのモチベーションがあったというのが徳川方の面白さです。

  

冲方 丁(うぶかた・とう)
冲方 丁(うぶかた・とう)
天野純希(あまの・すみき)

天野純希(あまの・すみき)

乾 緑郎(いぬい・ろくろう)

乾 緑郎(いぬい・ろくろう)

木下昌輝(きのした・まさき)

木下昌輝(きのした・まさき)

乾: 勝成の場合、大坂の陣のときはもう五十歳を過ぎていましたからね。完全な勝ち戦でしたし、どうだったんでしょう。話としては戦局を見据えつつも、それに縛られない書き方を選びました。夏の陣での伊達の味方撃ちというのは実際にあって、戦の後もなぜかお咎めなしで終わっているんです。勝成配下の神保相茂隊三百人全滅にもかかわらず、撃った理由は謎のまま。先の「五霊鬼」もそうなんですが、勝成のまわりには妙なことが起きているんですね。時代伝奇的な意味では非常に魅力的な人物です。

木下: 実は「五霊鬼」は僕も考えていて、オール讀物新人賞を受賞して最初に書いた短編の題材が「五霊鬼」でした。載るには至らなかったんですが、今回「五霊戦鬼」というタイトルを見たときはショックでした。そして読んでみたら、自分には考えもつかない切り口でさらにショック。

天野: 僕は以前からゾンビものを書きたいと思っていて、それで「五霊戦鬼」にウワってなりました。前に山中鹿之介を書く話があったんですが、そのすぐあとに乾さんが『鬼と三日月』を出されて、ヤバイと思って読んでみたら、あれ、これ山中鹿之介というか……ゾンビものだ! って。

乾: あれは山中鹿之介が毛利のゾンビ足軽と戦う話です。読んでくれたんですね、嬉しいなあ。

天野: 「五霊戦鬼」もゾンビ的要素のある話で、それで興味を持って読みました。

冲方: この企画も段々とバリエーションが広がってきました。今回、富樫倫太郎さんは武将でなく商人ですからね。戦場を俯瞰して見ることができる存在を出してきたのは、上手いなあと思いました。どちら側でもなく、自分の利という明確なモチベーションを持ってるわけですからね。

木下: 大坂の歴史の中で商人という存在はとりわけ大きいです。大坂の陣のあと、大坂には心斎橋を造った岡田心斎、道頓堀を造った安井道頓の一族など、後世も地名として残るような商人が出てきています。ある意味、商人が本当の勝者かもしれない。そういう人物を取り上げるのは面白い。

冲方: まず大坂という街が独特ですよね。朝廷のある京都とは違う。「大坂商人」というのが固有名詞のように扱われる。戦以外の勝ち負けで、別の「決戦!」感がある。

乾: 兵糧米なんかがどう城内に運ばれているのか、その空気や段取りなどはイメージしにくいんですが、こうやって具体的に書いてくれると面白い。侍同士、足軽同士が戦う興奮とは違うものがありました。

冲方: 一方、伊東さんは真っ向からくるのか変化をつけてくるのか、どういう風に攻めてくるかやっぱり気になりました。

木下: 面白かったですよね、千姫(家康の孫で秀頼に嫁いでいた)救出。地べたを這いつくばるような福島正守の視点で、落城シーンの臨場感はすごかった。

天野: 伊東さんは『関ヶ原』では家康視点で書かれていましたが、大局と地べたの両方が書けるのはすごいと思いました。千姫をめぐって愛だ恋だとなるのかと思いきや、なるほど、こう来るか、と。

木下: 千姫救出事件のもうひとりの立役者、坂崎直盛というのは、事件後なぜか殺されてしまうんですが、悪役として書かれがちなんですね。それをああいう切り口でかっこよく書かれる。伊東さんは男の書き方が本当に上手いです。

乾: 男度が高いですよね。福島正守の話だけかと思ったら、坂崎も柳生宗矩も、出てくる男たちがみな男っぽい。大坂の陣は城が燃え落ちて終わりますが、その中で何があったかが読める。トリを飾るのに相応しい一篇だと思いました。

冲方: 大坂城は女性が外交を繰り広げた城なので、最後に男たちが活躍していたというのは、気持ち的にはストンと落ちますよね。炎に包まれた城の中を千姫を抱えて駆け抜ける場面は、まるで「ダイ・ハード」のような!

天野: 天守閣のてっぺんから飛び降りるんじゃないか、くらいの勢い。でも、この一冊がきっちり締まった感がありました。

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決戦!大坂城

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プロフィール

冲方 丁(うぶかた・とう)

1977年岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の1996年に『黒い季節』でスニーカー大賞金賞を受賞し、作家デビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞、2010年『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、2012年『光圀伝』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『はなとゆめ』など。

天野純希(あまの・すみき)

1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。2013年『破天の剣』で中山義秀文学賞を受賞。他の著書に『風吹く谷の守人』『戊辰繚乱』『信長 暁の魔王』『覇道の槍』など。

乾 緑郎(いぬい・ろくろう)

1971年東京都生まれ。2010年『忍び外伝』で朝日時代小説大賞、『完全なる首長竜の日』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、作家デビュー。他の 著書に『賽の巫女 甲州忍び秘伝』『鬼と三日月 山中鹿之介、参る!』『鷹野鍼灸院の事件簿』『機巧のイヴ』『思い出は満たされないまま』など。

木下昌輝(きのした・まさき)

1974年奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒業。2012年「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞を受賞する。2014年、受賞短篇を含むデビュー作『宇喜多の捨て嫁』が直木賞候補となり、2015年、同作で高校生直木賞を受賞。

決戦!シリーズ 既刊

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『決戦!大坂城』書影
著:葉室麟/冲方丁/伊東潤/天野純希/富樫倫太郎/乾緑郎/木下昌輝
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