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超能力アリの「本格ミステリ」。早坂吝は3作目も凄かった

RPGスクール
(著:早坂吝)
2015.12.25
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『RPGスクール』は、『○○○○○○○○殺人事件』で衝撃のデビューを飾った早坂吝さんの3作品目。デビュー作と2作目の『虹の歯ブラシ』同様、平易な言葉で綴られた読みやすい文章、コメディタッチの本作ですが、過去2作品における最大の特徴だった(?)Hな描写は、今回はなし。こんなことを書くと、ライトな官能小説を期待していた本書未読の早坂ファンは、さぞかしがっかりしたことでしょう。

しかしまあ、そう残念がらず、エロ描写がないなら今回はご遠慮するとか考えているなら、ちょっと待ちなさい。

というのも、よくよく考えるまでもなく、早坂さんといえば多数の著名な本格ミステリ作家を輩出したメフィスト賞受賞作家なのです。
『RPGスクール』も、本格ミステリ作家・早坂吝さんの力量が遺憾なく発揮された作品です。そして、個人的に本作は、今後の本格ミステリにおいて一大勢力になっていくのかなと思わせてくれる〝ジャンル〟の作品でもありました。

『RPGスクール』とは、では、どのようなジャンルのミステリなのか? 

その前に、簡単にストーリーを説明しておきましょう。主人公の剣先(けんざき)は、高校1年生で、剣道の実力者。彼の暮らしている世界では超能力が存在し、ある日、学校の運動場で、有名な超能力者イマワの死体が発見されます。そればかりか、彼女の死体が発見されるよりも早く、突然、空が黒一色に。学校は外部との繋がりを絶たれてしまいます。剣先たちは異常現象を解明するために、RPGの主人公さながら「魔王」の存在する校内で、謎解きと冒険を行うことになるのですが……。

このような世界観の本書は、有り体に言えば、超能力が公然と認められている「異世界物」+謎解き重視の「本格ミステリ」。実を言うと、この手の作品はいまさら珍しくもなんともない。けれども、本格ミステリにおいては、書き手と、それに伴って作品数が、これからさらに伸びていくジャンルなのではないかと思います。

僕がなぜそんなふうに考えているかというと。

偉大な先人たちが灰色の脳細胞を使いまくって数多(あまた)のトリックを生み出した結果、いまさら言わずもがなですが、現在、斬新なトリックを考案するのはなかなか難しい状況にあります。出尽くした──と言い切るつもりはありません。しかし、それに近い状況にあるのは否定できないでしょう。もっとも、じゃあ打つ手なしなのかというと、そうでもない。

そうした現状に対する解決策のひとつが、SFやファンタジーなど、作者がその世界の物理法則なり社会のルールなりを設定できる「異世界」と「ミステリ」を組み合わせること。超能力者、吸血鬼、魔法使い、幽霊など。そのような超自然的な者たちが公然と存在する世界、あるいはロボットアニメ風の世界で展開される本格ミステリ。ひと昔前なら、せいぜいマイノリティ向けだった世界設定が、近年においては、そのような特徴を持つ作品があまねく受け入れられる傾向にあると僕は感じています。
 
言い換えるなら、続々と新しいトリックを考案できる「ハイブリッドな世界」が、すぐそこにある。たとえ既存のトリックの焼き直しだとしても、設定やガジェットが違うだけで新鮮に感じたりするもの、その意味でも今後書き手が増えていくのではないかと思わされるのです。『RPGスクール』は、そのような「異世界・本格ミステリ」であり、その独特の世界観によって、本格ミステリの新たな可能性を垣間見せてくれる作品なのです。

ところで、この本には、予知(プレコグニション)という、その名の通り未来を予知する超能力が出てきます。的中率は、能力者次第。常に100パーセントとはいかないものの、この能力に関しては、たとえば超能力がなくても使える気がします。近い将来、もしも「異世界・本格ミステリ」が一大勢力を築くようになったとしたら、『RPGスクール』はエポックメイキングな作品のひとつして列挙されるはず。

──僕には、そんな未来が予知できた。

レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。

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