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泣かされて、大人になる。「監督から選手へ」敗戦直後の名言集

全国高等学校サッカー選手権大会。高校サッカーの頂点を決めるこの冬の大会で、優勝の栄冠に輝くたった一校は、それまで懸命に続けてきた努力が報われて、とうとう日本一になる夢が叶って、嬉しくて泣くのだろう。

でも、他校のほとんどの選手たちは、嬉し涙よりも悔し涙を流すことになる。

それが勝負の世界。人生はそんなに甘くないし、勝者だけが努力してきたわけじゃない。

『最後のロッカールーム 完全燃焼 全国高校サッカー選手権大会敗戦直後に監督から選手たちに贈られた言葉』は、日本テレビのスポーツ番組『最後のロッカールーム』の91回大会と92回大会分の放送より抜粋し、講談社の『高校サッカー年鑑』編集部が制作した書籍である。

タイトルの通り、敗戦後の重々しい雰囲気につつまれたロッカールームで、監督が選手たちに贈った言葉を集めたものだ。ちなみに、91回大会は2012年12月30日から2013年1月19日にかけて、92回大会は2013年12月30日から2014年1月13日にかけて開催された。

そんな本書には、悔し涙を流す選手たちの写真も多数おさめられている。見ているこっちまで辛くなるような表情で。

彼らはナンバー1になるためだけにサッカーをしてきたわけじゃないだろう。でも、勝てなかった。敗者という現実を突きつけられて、くずおれて、泣くしかない。そんなときに何か言ってやれるのは、もとい言うべきなのは、ときに優しく、ときに厳しく選手たちに接してきた監督なのだろう。

「ようやった。勝てなかったのは、先生のせいや」(和歌山北「和歌山県」。中村大吾監督。91回大会)

「全国に連れて行ってくれて、ありがとう。僕は君たちに感謝している」(香芝「奈良県」。米原勝監督。91回大会)

「勝つのは大変だ。負けたら後悔するわ。でも、それがお前たちの糧になるから」(秋田商業「秋田県」。鎌田修明監督。92回大会)

試合に負けたからというより、監督に泣かされた選手もいたに違いない。本書に登場する監督たちの言葉の中には、選手たちを励ましたり感謝したりするだけでなく、これまで費やしてきた努力や敗戦の経験を、これから先の人生に繋げるようアドバイスするものもたくさんあった。

「サッカーは子供を大人に、大人を紳士にする」

これは、日本サッカー界の父であり、2015年9月に亡くなったデットマール・クラマーさんの言葉だ。

ピッチの上で、ロッカールームで──。嬉し涙を流したほんのひと握りの高校生たちと、その何十倍もの数の悔し涙を流した高校生たち。彼らはきっと、サッカーというスポーツを通じて、大人になるのだろう。仲間たちとの連帯感や他者に対する礼儀、目標に向かって必死に努力することの大切さを学んで、ひとりの立派な大人になっていく。
そんな彼らに心からの言葉を贈ることで、監督もまた、大人から紳士になることができるのかもしれない。

本書に収められた言葉の中には、サッカーに関係なく、日々を生きる上で教訓にできそうなものもいっぱいある。いま、あなたが何かに悩んでいたり、夢や目標に向かって頑張っていたりするのなら、そんなあなたの心に沁(し)み入る言葉、励ましてくれる言葉を、この本の中から見つけ出すことができるかもしれない。

レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。

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