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密室、5人組で決められた「集団的自衛権」重大史料

2015.12.14
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この本は2014年7月1日に安倍内閣が集団的自衛権の行使容認を閣議決定するまでの水面下の駆け引きを追ったドキュメント。「将来、自衛隊が初めて集団的自衛権を行使した時、歴史家や安全保障、憲法の研究者が、その原点となる閣議決定の経緯を探るうえで、必ず手に取ってもらえるような歴史的に価値のある史料にしようという意気込み」で書かれたものです。

今年(2015年)の安保法制論議の始まりともなった閣議決定はどのようにして成立したのか、そこには〝法匪(ほうひ)〟とでもいいたくなるようなことがあったのです。法匪とは法律を詭弁的に解釈して、自分に都合のいい結果を得ようとする者のことです。この決定プロセスに重要な役割を果たした高村正彦、北側一雄のふたりが、弁護士ということを考えると、いっそうその感が強くなります。

この決定プロセスは、読めば読むほど逆立ちしているように思われてなりません。先に集団的自衛権行使容認の閣議決定をするという結論は決められていました。なぜ集団的自衛権は憲法違反であるというこれまでの内閣法制局の解釈を退けて強行しようとしたのでしょうか。

そのひとつは安倍晋三総理の「集団的自衛権を持たない国家は禁治産者だ」という固定観念(執念)であり、もうひとつは「外務省の「湾岸トラウマ」の怨念」というものでした。この二つの〝念〟が結びついた時、「集団的自衛権の行使容認に向けた大きなエネルギー」を生んだのです。かつては湾岸戦争時にアメリカを中心とした国際社会から「カネしか出さないのか」と日本は批判を受けました。外務省に残したこの後遺症とでもいうものが「湾岸トラウマ」です。

そしてそれを象徴するかのような出来事がありました。外務省から内閣法制局長に抜擢された小松一郎(故人)の人事です。それは二つの〝執念〟がひとつになった瞬間でもあったのです。後はこの〝執念〟を実現させるための手段をさがすだけでした。

閣議決定のために乗り越えなければならない壁は二つありました。ひとつは内閣法制局、もうひとつが平和の党を自認していた公明党でした。法制局の壁を越えた自民党は公明党の壁を乗り越えるべく精力的に動き出します。

高村は公明党と太いパイプを持っている大島理森にその橋渡しを頼みます(大島は公明党の漆原良夫と、「悪代官」「越後屋」と呼び合うような親密な仲だそうです)。

はじまった与党内協議、けれどそれは簡単な道ではありませんでした。難航するなかで奇妙なことが起こります。集団的自衛権に否定的だった公明党の山口那津男代表が協議の場からはずれることになったのです。そして実質的な協議は高村、北側を中心とした5人組(高村正彦、北側一雄、横畠裕介、兼原信克、高見沢将林)で進められることになりました。密室政治そのものです。

その間、公明党内の合意を取り付けるために持ちだされたのが「砂川判決」であり、「限定的」という文言でした。この二つをめぐる高村・北側のやりとりはどうみても結論を導くために先例を探し求めていたようにしかみえません。「集団的自衛権行使に必要な事例を探せ」と言われたので、ひねり出した」という官僚の発言まであったのです。

その上、安倍総理はこんな発言を残しています。「山口さんは『連立合意文書に集団的自衛権をやるなんて書いてない』って言うけど、『やらない』とも書いてないんだから」と。安倍政権の政治姿勢を象徴するような発言です。

さらに安倍総理は強硬な姿勢を示します。閣議決定の期限を宣告したのです。そこから先は永田町の論理、〝落としどころ〟という妥協点の模索のみが問題になりました。そして公明党の合意(妥協)を取り付けた高村に安倍総理はこう言ったそうです。「高村さんはこれで大政治家だ。副総裁にしておいて本当によかった」と。

総理の意向を実現させるのが「大政治家」であるわけではありません。ましてや安倍総理が固執(妄執)している〝集団的自衛権〟を他党に認めさせることと「大政治家」とはなんの関係もありません。時の総理の施政に反対することが「大政治家」であるという事例は過去いくつもあります。

この「戦後の安全保障政策の大転換は、国家安保局による徹底した秘密主義のもと、政治家と官僚の「5人組」によって水面下で決められたもの」でした。安倍総理が言ったように「自民党、公明党の連立与党が濃密な協議を積み重ねてきた結果だ」というものでは少しもありません。

この本が明らかにしたのはいまだに続く密室政治というものの姿です。そこでなにが行われたのか。実名をあげ、また詳細な発言を追い、その経緯、紆余曲折を明らかにしています。人物相関図、年表まで記されたまさしく「歴史的に価値のある史料」にふさわしいものだといえます。

そしてひとつ気づかせられます。このときの閣議決定の過程やその後の国会での安保法制審議で欠けていたものは、なにより議論と説得だったということを。それが充分には行われないまま安保法制は成立しました。その上に今の日本があります。そのことを忘れないためにもぜひ読んでほしい1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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