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魅力的な謎、斬新な設定、わくわく感。調査班結成から25年、MMRは今でも最高に面白い!

MMRマガジンミステリー調査班
(著:石垣ゆうき)
2015.11.17
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1983年生まれの僕にとって、少年時代に当たる1990年代は、とても濃密だ。
スマホだのタブレットだの、当時の感覚からすれば完全にSFの小道具でしかない情報端末機器は存在せず、携帯電話でさえ持っている人の方が少なかった。ポケベルや、僕が中学生の頃ぐらいになるとアステルなどのPHSの時代を経て、小型の携帯電話は徐々に普及していった。
いまのようにネットで双方向に情報を得たり、発信したりするような時代でもなかった。いろんなものが現在とは違っていた。

たとえば「シネコン」なんて効率的な映画館は、(おそらくだが)なかった。映画はちゃんとお金さえ払っておけば、その人の気分や都合でいつでも入ったり、出たりしてもいい。空席がなければ立ち見なんか普通だったし(空席があっても立っている人はいた)、そういう客たちの〝自由〟も含めて、映画だったのだ。

いまとなっては博物館に飾れそうなほどレアになってしまったCDのミリオン突破は、あの頃、人気アーティストならおよそ日常的な現象だったし、そこらへんに個人経営のCD屋もあった。どんな音楽が好きかで、友達や好きな女の子とずっと話ができた。僕はあの頃、グレイよりもラルク派だった。

1990年代は据え置き型テレビゲームの国内全盛期でもある。アマゾンなんて便利すぎるものはなかった時代なので、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』は新作を出すたびに店先に行列ができ、ニュースになり、馬鹿売れした。
格闘ゲームもあの頃が最盛期だろう。ほどなくしてプレステとセガサターンの時代になり、いま見返せば不格好でしかないカクカクのポリゴンをとてつもなく美しいと思った。3Dへと移行していったゲーム映像のドラスティックな変化に〝脳天直撃〟だったのだ。

漫画なら、当時は『週刊少年ジャンプ』(集英社)のウルトラスーパー黄金期。1990年代にして、すでに超長期連載だった『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、日本が世界に誇る『ドラゴンボール』、他にも『幽遊白書』『るろうに剣心』『スラムダンク』など、ジャンプ漫画を知らない奴の方がマイノリティという時代だ。
『週刊少年マガジン』なら『金田一少年の事件簿』が大人気で、僕は『サイコメトラーEIJI(エイジ)』も好きだった。どちらもミステリー、サスペンス漫画の傑作であり、だからなのか当時の僕にとって『週刊少年マガジン』というのは、ミステリーに強い漫画雑誌というイメージだった。

マガジン、ミステリー、1990年代──。
だいぶ前置きが長くなったけれど、マガジンで1990年代を代表するミステリー作品といえば、『MMRマガジンミステリー調査班』(石垣ゆうき)もそうだ。

MMR(エムエムアール)とは、マガジン・ミステリー・ルポルタージュのそれぞれ頭文字を取ったもので、当時の『週刊少年マガジン』編集者、キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダ、トマルたちが隊員として登場し、UFOや超能力などのSFネタ、心霊現象、全世界規模の陰謀論などに対し、科学的なアプローチで独自の解釈を加えていくという面白い試みの漫画だった。

隊員たちは超常現象解明のために、実際に日本各地、ときには海外にまで取材に赴く。その際に撮影した写真が、石垣ゆうき先生の描く漫画の中に適宜差し込まれるのも新鮮だった。取材の様子を克明に描くことで質の高い実録ミステリー風に仕上がったMMRは、数ある漫画の中でも独自の地位を築き上げていった。
遺跡や古代文明の話のときにはまるで考古学者のように、心霊現象の回になるとオカルト雑誌の記者のように、それぞれ隊員たちが駆けずり回っては活躍し、どのエピソードを読んでも新しい知の発見があって、わくわくさせられた。
あと、ずいぶんと「眼鏡キャラ」の多い漫画でもあった。キバヤシ隊長、イガラシ編集長、トマル隊員、それから取材先で出会う大学や研究所の偉い先生方など、異常な眼鏡率を誇った。

また、多くのファンにとって『MMR』といえば、隊員たちによる「なんだって!!」の叫び声と、人類滅亡を語った「ノストラダムスの大予言」が代名詞だろう。
そのノストラダムスの予言を調べていくうちに、隊員たちは謎の人物から取材を中止せよという脅迫を受けるようになる。調査を妨害しようとする謎の人物の正体とは? その動機は? そもそもノストラダムスの人類滅亡の予言とは、具体的には何を意味しているのか? 

ベタな展開。大袈裟な設定。でも、それが最高にいい。やはり、わくわくさせてくれる漫画だ。そして、この「わくわく感」こそが、僕にとっての1990年代の漫画そのものだった。もちろん、いまの時代の漫画も好きだし、面白いと思う作品はたくさんある。
でも、僕が少年時代に感じた「わくわく感」がいっぱいの漫画は、なんだか減ってしまったような気がする。……気のせいかもしれないけれど。

もちろん漫画には、いろんな在り方があっていい。実際、僕はそうした状況を楽しめている。だけど、やはり僕にとって最も大事な漫画の要素は、まるで冒険に出かけるような「わくわく感」なのだ。それが子供向けであれ、大人向けに描かれたものであれ。
もしかしたらオッサンが昔を美化しているだけかもしれない。かもしれないが、いずれにせよ、いまでもときどきそんな「わくわく感」を──強い求心力を持った作品を無性に読みたくなる。だからそういうときには、1990年代に〝帰る〟こともしばしばだ。たとえば『ドラゴンボール』を読み返したり、最近では電子版で『MMR』を読み返したり、漫画に限らずだが娯楽にはタイムマシンとしての機能がある。

キバヤシ隊長を中心とする調査班の結成(1990年)から25年が経過しても、『MMR』は色褪せない。魅力的な謎、斬新な設定、そして「わくわく感」。『MMRマガジンミステリー調査班』は、いま読み返しても最高に面白い漫画のひとつだ。

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レビュアー

赤星秀一

小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。

近況:『MMR極秘マガジン』によると、トマルさんは日本最高峰の大学を出ていて、ミステリマニアで、バイオリンが弾ける上に、タロット占いまでできるそうな……。よもや、そんな神津恭介めいた多才な人物だったとは存じ上げませんでした。正直、意外です。凄い。

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