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残された家族の姿を大きく変えた30年という月日
(著:西村匡史)
「事故の核心である修理ミスを行ったボーイング社の作業員からは、話を聞くどころか遭うことさえできなかった。日米の事故調査制度の「壁」に阻まれ、「完敗」したのだ」
「刑事責任を問われるならば、当事者は口をつぐみます。それが人間の性です」
「かつて「壁」となった日米の事故調査制度の違いは、30年立った今も変わらない」
事故調査委員会の幸尾治朗さんの事故後30年経った今の思いがこの本の最後に記されています。
「事故調はボーイング社が行った後部圧力隔壁の修理ミスが、事故の引き金になった」と報告書で断定」したけれども「作業員はなぜ修理ミスを犯したのか」というところまでは解明できませんでした。ボーイング社の事故調に対する振る舞いは決して協力的なものではありません。そこには上記のように「刑事責任」を問うという日米の差があったのです。修理作業にかかわった人たちはもういない、修理作業指示書にサインしたものに対しても「ボーイング社側の答えは、「わからない」の一点張り」でした。「原因が分からなければ解決策も提案できない」し「明確な再発防止策も提言する」こともできません。「事故調の調査を阻んだのは「日米における事故調査制度の違い」だった」のです。
事故原因の解明の行方も見えぬまま、遺族の方たちの上には30年という長い月日が経っていきました。30年目の今年、遺族や関係者の中には慰霊登山もあるいは今年が最後なりそうだという人たちもいるといいます。
またこの間、「「陰徳を積む」ということを人生の柱に据え」て、遺族の方たちの大きな支えとなっていた上野村の黒沢村長も鬼籍に入られました。
事故直後に生まれた遺族の子ども、また事故当時、子どもだった方たちも、みな事故当時の親と同じか、親を超える年齢になりました。
30年という月日は残された家族の姿を大きく変えていきました。事故でお子さんたちを一度に亡くした家族に向けられたいわれない言葉、それがために住まいを変え遺族であることを隠し続けた夫婦、新婚間もない妻を失った夫、最後のメモを残したまま亡くなった人の家族……。残された人たちの30年という長い月日を西村さんは丁寧に綴っていきます。そして黒沢村長を初めとして山守として接した人、民宿を営む人、慰霊に音楽を届け続けている人など、遺族の悲しみに寄り添うように接した人たちの姿が描かれています、もちろん良心ある加害者の姿も……。
この本は事故がもたらしたものはなんだったのか、そしてそれをどのように継いでいくのかをそれぞれの当事者の姿を負いながら多面的に描き出したのものです。
「事故後3ヵ月間で、私は喪服を何度も着ました。そのたびに悲しみに打ちひしがれた姿を期待されました。でももう下を向きながら生きていくことに終止符を打ちたい。しっかりと前を向いて、なぜ、最愛の人が死ななければならなかったのかを世に問い、亡くなった人の分まで生きたいと思っています。だから『遺族』という文字は削ってください」
その声にうたれて、「遺族会は「8.12連絡会と命名」されました。〝遺族〟という言葉を捨てたのです。そしてこの会はある特徴を持っていました。それは「会費制である。加害者側の日航から、会に対してのいかなる金銭的支援も受けない」そしてもう1つ「会を補償交渉の窓口にはしない」ということです。
西村さんはこれが「大規模な事故の遺族会が、30年経った今も固い結束を維持し、その後の事故の遺族会のモデルとしてあり続けた大きな要因」といっています。
私たちにこの事故の遺族が教えてくれるもの、教訓として残してくれるものは数多くあること、また先のボーイング社側の答えにあらわれているように、課題も残されています。けれどそれ以上に520人の犠牲者がもたらした悲しみ、喪失感に思いをいたす時、そんなことができるとしても、その大きさにただただ立ち竦むばかりです、風化させてはいけないと思いながら。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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