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戦争は人間を変えます、その当たり前のことを今一度考えさせてくれるものです
(著:長新太/和歌山静子/那須正幹/長野ヒデ子/おぼまこと/立原えりか/田島征三/山下明生/いわむらかずお/三木卓/間所ひさこ/今江祥智/杉浦範茂/那須田稔/井上洋介/森山京/かこさとし/岡野薫子/田畑精一 解説:柳田邦男)
3歳でむかえた終戦(那須正幹さん)から19歳でむかえた終戦(かこさとしさん)まで、19人の児童文学者が自分の目で見た、体で感じ、心に衝撃を残した戦争体験を綴った作品を集めた一冊です。
広島で原爆を体験した那須さんはこう綴っています。
「広島では一九四五年末までに十四万人が犠牲になったという。原爆は天災ではない。戦争という人災がもたらした悲劇だ。だからこそ、だれもが戦争は二度としたくないと心のそこから思ったのだ。朝鮮戦争が始まったのは、小学二年生になってからだ。軍隊を持たないと憲法で決めたはずの日本に警察予備隊が生まれ、それが保安隊、自衛隊と名前を変えながら、あっというまに巨大な軍事組織となった。(略)現在、日本はふたたび戦争のできる国にかわろうとしている。あの日亡くなった広島の人々に、このことをどう伝えたらよいのか。原爆慰霊碑に刻まれた「過ちは繰返しませぬから」という銘文について、どういいわけすればよいのか、七十三歳になったぼくは、そのことばかり考えている」
かこさんはこんな体験を綴っています。
学徒動員されたある日のことでした。かこさんは盲腸である病院に入院することになってしまいます。そこの病院にはめんどうみのいいおばちゃんがいました。ある時同室になった水兵がそっとかこさんに教えてくれたのがミッドウェー海戦の敗戦とその後の事でした。「生き残りの水兵の口封じのため、工場に隔離された」というのです。けれどその水兵はある日憲兵によって連れ去られてしまいます、なんと、病院で看護の仕事をしていたおばちゃんも一緒に……。
おばちゃんは自宅へ戻されたものの「自宅で自死」してしまいます。「憲兵の調べはすんだのに、となり近所から非国民! スパイ!と罵りや家に石を投げられた」のだそうです。
ここに“銃後の悲劇”があります。いつもはおだやかなつきあいや助け合いもしていたであろう隣人たちが、突然人が変わったようになってしまうのです。
けれどこれは軍部の強制があったからという問題だけではないように思います。日本人が陥りがちな“空気”“雰囲気”がもたらすものでもあります。“いつのまにか”“これくらいなら”“しかたがない”といった譲歩、我慢、辛抱、付和雷同がもたらす悲劇です。誰もが陥ってしまう危険があるものなのです。
「どうして戦争はいい人を奪ってゆくのか」
かこさんのいうとおりです。奪っていくのは時の政権・軍部であるだけではありません。それを認めてしまった私たちにも原因があるのです。
東京大空襲、大阪大空襲、機銃掃射にあいながらも一命を取り留めた話など、ここには戦禍、戦争の悲惨さがそれを体験した子どもの視点で語られています。この記憶は伝えつづけられなければなりません。
「今の日本は、政治家も外交官も行政官も学者も、戦争を経験していない世代で占められています。戦争や軍備や他国との関係を、理屈や数字のみでとらえる傾向がつよくなっています。いったん戦争になったら、住民がどのようなことに巻き込まれるかという議論はされません。とても危ない時代です」(柳田邦男さん)
戦争に良い戦争も悪い戦争もありません。ましてや正義の戦争などというものがあるわけはないのです。この本で記録された被害はいうまでもなく相手国にも起こることなのです。戦争は人間を変えます、その当たり前のことを考えさせてくれるものだと思いました。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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