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何もないよりあったほうがまし!? 自分の恋愛も消費してしまう時代に……

東京タラレバ娘
(著:東村アキコ)
2015.08.18
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『東京タラレバ娘』の三巻が出ると、今回もあっという間にネット上で話題となりました。私は、あとがきで、カフェやリストランテに行くのは、女友達とではなく、愛する人ができたときや、その報告会で行くべしと書いていたことに衝撃を受けたのですが、そこはTwitterで語るだけ語ってしまい、自分的には一段落ついたので、もう一度じっくり読んで、新たな観点から書こうと思います。

アラサーに限らず、女性が都合の良い存在になるのは、よくないことだとは思います。でも、バンドマンである元カレのセフレ状態の香のことも、不倫中の小雪のことも、売り出し中のイケメンといろいろあり、そして次の出会いに賭ける脚本家の倫子のことも、男性たちに消費されているという印象は受けないのです。

なぜかと考えると、彼女たちに、つらいつらいと言いながらも、自らがその状況に飛び込み、そんな自分に酔っているようなところが見えるからかもしれません。退屈な日常から連れ出してくれる存在にひと時でもいいからと、よりかかっているように見えるからかもしれません。そうじゃなかったら、何かがあったときに、そのたびに集合をかけて報告会をしたり、ハンズフリーで相手からのお誘いの電話を仲間に聞かせるようなこともないと思うのです。

芸人さんで、何かつらいことがあっても、それは全部ネタになると語る人は多いものですが、そんな感覚を、普通の女の子も持っているこの時代には、何も語るネタがないよりもあったほうがまだマシと思う感覚があるのではないかと思うのです。

この漫画の冒頭のエピソードであるACT8には「ジェットコースター女」というタイトルがつけられています。その冒頭には、「あたしらだって乗りたくて乗ったわけじゃない」とは書いているものの、ジェットコースターに乗っているときに感じるような、自分の思いのままにならない恋愛にハラハラしたいと期待しているようにも見えてしまいました。

実際、恋愛の「つらい」ということすら消費している状態のときってあるものではないでしょうか。もちろん渦中にいるときはつらくて仕方がないのだけれど、後で振り返ると悲劇のヒロインみたいになっていたなと思えたりするあれです。

そして、この漫画の中の三人は、平凡な恋愛ではなく、自分は人よりも特別だと思いがちな恋をしていて、それに酔えるシチュエーションの中にいます。だからこそ、つらくてもどこか気分が高揚していて、悲劇のヒロインである自分を消費できるのです。

本人も、自分のおかれた状況を消費しているつもりはさらさらないでしょう。でも、もしもタレレバ三人娘のうち、一人だけがつらい恋をしていなかったらどうでしょうか。一人だけ「つらいつらい」と言うエピソードがなかったら気おくれしてしまい、報告会は二人だけで行われるようになったりするのではないかと思うのです。でも、幸か不幸か、三人は同じ価値観の中に生きています。

もしかして東村さんは、ジェットコースターに乗っているような恋、つまり吊り橋効果でもたらされた恋を、自らが消費していることに対して警鐘を鳴らしているのではないか? と思ったりしたのですが、ジェットコースターのくだりは、アラサーが梯子を外されて落ちる転換期を表しているようですし、『東村アキコ解体新書』という本で『東京タラレバ娘』について書かれたインタビューを読んだら、「この漫画で救いをあげようとか思ってないですよ! ただの現実を描くつもりですから」と書いていたので、それは私の深読みかもしれません。でも、どんなものでも、消費にはおぼれないほうがいいと思うのです。

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レビュアー

西森路代

1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。

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