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現行憲法の精神(思想)を見つめ直してから、改憲論議を考えてみる必要があるのではないでしょうか

改訂版 石ノ森章太郎まんが日本国憲法
(著:石ノ森章太郎/浦田賢治/志田陽子)
2015.04.17
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今、改憲論議がさかんになりそうな気配が漂っています。改憲はもちろん雰囲気で判断するようなことではありません。現行の憲法がGHQによる押しつけ憲法云々とはよくいわれることですがが、またそれは間違いではないと思いますが、まずなによりも現行の日本国憲法の中身をよく知って(読み直して)おくことが大事なのではないでしょうか。

この本はコミックスの世界を広げ、新しい呼び名「萬画」を提唱した石ノ森章太郎さんが日本国憲法を「萬画化」したものです。
条文ごとにその条文が意味することをコミックスの利点を生かしてわかりやすく数コマで描いています。
ある条文では家庭の問題に置き換えて説明したり、また他の条文では過去の歴史を入れて解説したりと、ユーモアを漂わせているところもあり、石ノ森さんのみごとな「萬画化」が光っています。
また、それぞれの条文につけられてた解説はコンパクトでありながら必要なことは網羅されているように思います。

巻末にまとめられた「日本国憲法 Q&A」では現在の憲法をめぐる環境の変化を反映したものになっています。たとえば表現の自由について解説した章では章では「ヘイトスピーチ」の問題を取り上げていたり、地方自治では「道州制」について触れられています。

この「日本国憲法 Q&A」の中では「憲法改正と憲法制定の違い」のところで
「憲法改正は、憲法の基本原理を変えない範囲内で時代と社会の要請に適応する作用である。したがって主権の原理といった基本原則を変更することはできない。国民主権だけでなく、基本的人権保障や平和主義も、憲法の基本原理になっているから、憲法改正の範囲外である」
と説明されているのが目を引きます。それでいえば、今の改憲論議の背景にある集団的自衛権や特定機密保護法等を考えあわせると、自民党の改憲案は必ずしも無条件な平和主義になっているとはいえないのかもしれません。

三権分立の意義、行政権の範囲(行政作用)の解説が詳しく書かれており、また司法の解説個所では裁判員制度の意味合いにも触れています。

もう一つ特長を挙げれば巻末の「日本国憲法ができるまで」という作品はわずか10ページの中にみごとに現行憲法の成立史を描いてあります。ここも「萬画化」の良さが現れているところではないかと思います。

憲法はなによりも行政府(権力)の暴走を押さえ国民の権利を守るものだと思います。けれど、さまざまな改憲論議の中には、この本でも触れているように「旧日本国憲法の思想を復活させようとする傾向を含むものもある」のです。
憲法の意味合いを再確認して、まず現行憲法の精神(思想)を見つめ直してから、さまざまな改憲論議を考えてみる必要があるのではないでしょうか。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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