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90年代、人は自分の外側を開拓していた

美人画報
(著:安野モヨコ)
2015.04.14
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1990年代後半の本っつーのは文体が違います! どう違うかということを説明するのは難しいので、今回のレビューは90年代後半の文体で書いていこうと思います! やたらと「!」とか「っ」とかの多様で当時の空気が伝わるかどうかわかりませんし、最後までこのテンションが続くかどうかもわからなので、やっぱりここだけにしておきますけど!

文体を元に戻します。この本を読んでまず思ったのは、バブル時代が浮かれてるなんて言われていましたけど、実は00年代も意外と浮かれていて、いろんなことに開拓できる余地があったということです。

美に関してもそう。今でも女性だけの文化や風習は、男性、それもおじさまには知られざるものらしく、ちょっとした手の内を明かすと「ほほー、そうなのか」と重宝がられたりするものですが、この『美人画報』は、女性が読む美容雑誌『VOCE』の連載。ということは、安野さんと同世代や近い世代の女性が読んでたということです。

それなのに、書いてある女性のコスメやエステなどの情報は、いま見るとおじさんが関心するような話。それくらい女性の間でも、美の情報がすみずみまでは行き届いてはいなかったということですね。

文章を読む限り、自意識というのもまだまだ未開拓です。なぜなら、自意識を研ぎ澄ませるよりも、当時はするべきことがまだまだあったからでしょう。もちろん、当時も複雑な自意識を書く書き手はいたと思いますが、あの頃は、消費をしないといけないし、新しい物の情報がいるし、知らない海外の土地にいかないとだし、とにかく外へ外へと掘り進めていくのに忙しかった。とにかく、自分の中よりも外に開拓すべきものがたくさん残っていたんですね。

その後、自分探しの時代が来たのは、この本が出た1999年からたった5年後の2004年だそうですが(この年に流行語大賞のノミネートをおしくも逃したそうです)、自分の外の世界を開拓することをやり終わったところで、自分への開拓がはじまったのでしょう。

とはいえ、この本には消費の話と同じノリで瞑想などのスピリチュアルな話も出てきます。エコノミックアニマルおやじをコケにする記述などもでてきますから、ちょうど外から自分へと対象が移る過渡期だったということでしょう。

増えることがいい、自分にも何かが付加されることがいいみたいな価値観がこの時代にはあったのに、いまや、モノも人間関係もどちらかというと整理整頓、断舎離の時代です。自分の中や自分の身内(コミュニティ)を掘ることが重要で、自分の外にはなるべく足さないことがいいという世の中になっていることを思うと、ちょっとした隔世の感を味わえる本でした。

 

レビュアー

西森路代

1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。

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