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「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」という最後の言葉がジーンと心に響いてきます
(著:村上春樹/佐々木マキ)
暑い暑い真夏の盛りに、羊男さんがクリスマス用の音楽の作曲を頼まれたところからこの物語は始まります。
(暑い中の羊男のコスチュームはとてもつらそうです……エアコンもないようです)
けれど、音楽はなかなかできません。羊男さんは、それは夜にピアノを弾くと大家さんに怒られるのでうまく進まないからだと思っていました。
(大家のおばさんの怒った姿は迫力満点です)
でも、時間は飛ぶように過ぎ、もうすぐクリスマス……。おまけに一小節もできていません。
途方にくれる羊男さんに羊博士さんが声をかけました。
「それなら私が助けてあげられるかもしれんぞ」
シナモン・ドーナッツ好きな博士が羊男さんに作曲ができないワケを教えてくれました。
それはクリスマス・イブの夜に穴のあいたドーナッツを食べたから、呪いをかけられたというのでした。
クリスマスイブは聖羊上人が穴に落ちて亡くなられた聖羊祭日でもあったのです。
博士が見つけてくれた呪いを解く法とは大きな穴を掘ってクリスマス・イブにそこに飛び込むことでした。クリスマス・イブまであと三日。羊男さんは必至に穴を掘ります。
(大家さんに注意されながらも)
そしてむかえたイブの夜。一大決心して穴に飛び込んだ羊男さんでしたが、時間を少し間違えて……。
穴の底には羊男さんが思ってもみなかった世界がありました。
羊男さんの呪いは解けるのでしょうか……。そして音楽はつくれるのでしょうか……。
ほかの村上さんの作品の羊男さんとはひと味ちがう羊男さんの冒険譚、佐々木さんのイラストも紙から飛び出してくるようで、読み始めたら・見始めたら手が止まることはないと思います。
「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」という最後の言葉がジーンと心に響いてくる一冊です。もっと大きな本で、誰かと一緒に見たら、どの登場人物が好きかから始まって話がつきることはないと思います。イブはさておき、聖羊祭日にはシナモン・ドーナッツがふさわしいと、きっとみんなが思うにちがいありません。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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