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歴史家の志に感応する人物、出来事を綴る歴史書があってもいいはずです。
一人で通史を書く情熱はどこからきているのでしょうか。『読史余論』 の新井白石、『日本外史』の頼山陽たちはなぜ通史を書こうと思ったのでしょう。しばしば、歴史は物語だとも言われますが、その前に〈史〉は〈志〉でもあるのではないでしょうか。そう思えてならないのです。
歴史は正しい事実に基づいて綴られるものだと言うのが常識だとは思います。けれど少し立ち止まってみれば、天災に類するものでない限り、歴史に残っている事実とはその時代に生きた人間たちが起こしたものです。
そして、その人間たちを動かしているのは環境条件だけではありません。その人間たちの志したものも大事な要因を担っているのではないでしょうか。だとすれば歴史家の志に感応する人物、出来事を綴る歴史書があってもいいはずです。もちろん狂信的なものは別ですが。
この本は明治人としての、また初期民友社にあった民権日本をどう作るかという志を秘めて綴られた通史ではないかと思います。神話時代の太古を避け、神武から江戸幕府崩壊までの歴史を、国体というような先入観から離れて美しい文体で綴っています。もっとも、今からみれば神話時代は竹越与三郎さんの考えているよりもっと後の時代までを含んでいるものではありますが。
この竹越与三郎さんの明治人としての面目は神武天皇(当然今では神話上の人物とされているが)を土着人種と交わった新人種と断じ、神武時代の国民生活(!)を語っているところなどに現れていると思います。
また、いたずらに純粋日本を追うようなこともせずに、朝鮮半島との交流の中
「韓人種の血液の皇室に入りしはこれをもって初めとす」
のような皇室観も披瀝しています。日本では海外交流が古くから行われていたことも明快に記しています。これは竹越与三郎さんの志でもあるでしょうが、健全な明治の精神というものが竹越与三郎さんの中に生きているからではないでしょうか。
竹越与三郎さんは南北朝正閏問題を提起し、政府によってひとたびは禁書とされてしまう運命にあいます。また、海外の歴史書を手本にしているという指摘もあります。啓蒙期日本のことですから竹越与三郎さんがこの本を書くにあたって手本(目標)としたものがあったのも、もちろん確かです。けれどその模倣を越えて生きている本といっていいのではないでしょうか。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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